天才力士・水戸龍が幕下転落危機!部屋崩壊の悲劇
「もったいない」――相撲関係者の誰もがそう口にする。2025年7月17日、大相撲名古屋場所5日目、アマチュア横綱と学生横綱の二冠を手にした天才力士・水戸龍(31)が休場を発表した。初日から4連敗、東十両10枚目での休場は、7年半ぶりの幕下転落を意味する。しかし、これは単なる不調の話ではない。錦戸部屋という「実質一人部屋」で戦い続けた男の、環境に潰された才能の物語だ。
水戸龍の休場発表と現状
日本相撲協会は17日、名古屋場所5日目の取組前に水戸龍の休場を発表した。本名バーサンスレン・トゥルボルド、1994年4月25日生まれの31歳。身長190センチ、体重190キロの恵まれた体格を持ちながら、今場所は初日から精彩を欠いていた。
4日目までの成績は0勝4敗。東十両10枚目という番付の位置を考えると、このままでは来場所での幕下転落は避けられない状況だった。休場は2024年秋場所以来で通算7度目。度重なる休場が、彼のキャリアに暗い影を落としている。
4連敗の内容と相撲内容の分析
今場所の水戸龍の相撲内容を振り返ると、明らかに本来の力が発揮できていなかった。得意の押し相撲が影を潜め、立ち合いから相手に圧倒される場面が目立った。
日目 | 対戦相手 | 決まり手 | 試合内容 |
---|---|---|---|
初日 | 対戦相手A | 寄り切り | 立ち合いから一方的に押し込まれる |
2日目 | 対戦相手B | 押し出し | 中盤まで互角も最後は力負け |
3日目 | 対戦相手C | 上手投げ | まわしを取られて為す術なし |
4日目 | 対戦相手D | 突き落とし | 攻め急いで自滅 |
特に目立ったのは立ち合いの鋭さの欠如だ。かつては「立ち合いの圧力」で相手を圧倒していた水戸龍だが、今場所はその威力が完全に失われていた。31歳という年齢による衰えなのか、それとも稽古不足なのか。いずれにせよ、深刻な状況であることは間違いない。
水戸龍の輝かしい経歴と現在のギャップ
現在の苦境とは対照的に、水戸龍のアマチュア時代の実績は輝かしいものだった。モンゴルのウランバートル出身の彼は、2009年に来日。鳥取城北高校を経て、日本大学へ進学した。
アマチュア時代の華々しい実績
- 大学3年時:全日本相撲選手権優勝(外国出身者初のアマチュア横綱)
- 大学4年時:全国学生相撲選手権優勝(学生横綱獲得)
- 日本大学相撲部主将:外国出身者として初の快挙
- 大学時代の獲得タイトル:8個
これらの実績により、プロ入り時は幕下15枚目格付出の資格を獲得。まさに「天下一品」と評される才能の持ち主だった。同じ飛行機で来日した照ノ富士(現横綱)、逸ノ城(元関脇)と共に、モンゴル出身力士の新世代として期待された。
プロ入り後の苦難の道のり
2017年5月場所でプロデビューを果たした水戸龍は、わずか4場所で幕下を通過。2018年1月場所には十両昇進を果たし、錦戸部屋創設以来初の関取となった。2022年9月場所には念願の幕内昇進も果たし、最高位は東前頭13枚目(2024年5月)まで上り詰めた。
しかし、その後は怪我や不調に悩まされ、十両と幕内を行き来する日々が続いた。そして今、7年半ぶりの幕下転落という最大の危機を迎えている。
錦戸部屋の深刻な問題
水戸龍の不振の背景には、所属する錦戸部屋の深刻な問題がある。2002年に元関脇・水戸泉が創設した錦戸部屋だが、現在は存続の危機に瀕している。
力士不足という致命的な課題
一時期、水戸龍は事実上、部屋で唯一の現役力士という異常事態に陥っていた。通常、相撲部屋では毎日の稽古で力士同士がぶつかり合い、技を磨いていく。しかし、相手がいなければ稽古にならない。
「もし違う部屋に入門していたら…」
相撲関係者からは、こんな嘆きの声が聞こえてくる。天賦の才を持ちながら、環境に恵まれなかった水戸龍への同情の声だ。
親方の健康問題と部屋の運営
錦戸親方(元関脇・水戸泉)は健康上の問題を抱えており、人工透析を受けているという。親方の健康問題は部屋の運営にも影響を与え、力士たちが次々と部屋を去っていった。
2025年4月には、出羽海一門の木瀬部屋から第21代千田川(元幕内・徳勝龍)が部屋付き親方として移籍。さらに新弟子も数名入門し、現在は5名の力士が在籍しているが、それでも他の部屋と比べると圧倒的に少ない。
7年半ぶりの幕下転落がもたらす影響
仮に水戸龍が来場所で幕下に陥落した場合、その影響は計り知れない。
経済的な打撃
関取(十両以上)と幕下以下では、待遇に天と地ほどの差がある。
項目 | 関取(十両) | 幕下以下 |
---|---|---|
月給 | 110万円以上 | なし(場所手当のみ) |
個室 | あり | なし(大部屋) |
付け人 | あり | なし |
着物 | 自由 | 浴衣・着流し禁止 |
31歳で家族を持つ水戸龍にとって、この経済的打撃は深刻だ。
精神的なダメージと引退の可能性
7年半も関取として過ごしてきた力士が、再び幕下の生活に戻ることは精神的に極めて厳しい。特に31歳という年齢を考えると、復活への道のりは険しい。
相撲界では、30歳を過ぎて幕下に転落した力士の多くが引退を選択している。体力の衰えに加え、若手との競争、そして「元関取」というプライドとの葛藤。これらすべてが重くのしかかってくる。
今後の展望と水戸龍の決断
休場により、水戸龍の今場所の成績は0勝4敗11休となる見込みだ。東十両10枚目でこの成績では、来場所での幕下転落はほぼ確実となる。
復活への可能性は?
過去には幕下に転落してから再び関取に返り咲いた力士も存在する。しかし、31歳という年齢、度重なる休場による体力の衰え、そして錦戸部屋の環境を考えると、復活への道は極めて困難と言わざるを得ない。
それでも、アマチュア横綱・学生横綱という輝かしい実績を持つ水戸龍には、まだ可能性が残されているかもしれない。問題は、その可能性に賭ける気力が本人に残っているかどうかだ。
引退という選択肢
一方で、引退という選択肢も現実的になってきている。31歳という年齢は、第二の人生を始めるにはまだ若い。モンゴル出身力士の多くは、引退後も日本に残り、飲食業や格闘技指導者として成功している例も多い。
水戸龍の場合、日本の大学を卒業しているため、日本語能力も高く、人脈も広い。引退後のキャリアという点では、他の外国出身力士よりも有利な立場にあると言える。
相撲界が抱える構造的な問題
水戸龍の苦境は、単に個人の問題ではなく、相撲界全体が抱える構造的な問題を浮き彫りにしている。
小規模部屋の限界
錦戸部屋のような小規模部屋では、十分な稽古環境を提供することが難しい。力士同士の切磋琢磨がなければ、どんな才能も開花しない。これは相撲界全体で考えるべき問題だ。
外国出身力士への支援体制
水戸龍のように、若くして来日し、日本の教育を受けて相撲界に入った外国出身力士は増えている。しかし、彼らへの長期的な支援体制は十分とは言えない。特に、所属部屋に問題が生じた場合のセーフティネットが必要だ。
まとめ:水戸龍の決断が示すもの
2025年7月17日、水戸龍が下した休場という決断は、単なる体調不良による休場ではない。それは、7年半続いた関取生活に終止符を打つ可能性を秘めた、重大な決断だった。
アマチュア横綱・学生横綱という輝かしい実績を持ちながら、環境に恵まれず、31歳で岐路に立たされた一人の力士。その姿は、相撲界が抱える様々な問題を象徴している。
水戸龍が今後どのような道を選ぶにせよ、彼の決断は尊重されるべきだ。そして相撲界は、このような悲劇を繰り返さないために、構造的な改革を進める必要がある。
名古屋場所はまだ続く。水戸龍の今後の動向に、相撲ファンの注目が集まっている。果たして彼は、7年半ぶりの幕下で再起を図るのか、それとも新たな人生を歩み始めるのか。その答えは、まもなく明らかになるだろう。