「まさか、あの横断歩道で…」
本厚木駅を利用する人なら誰もが知っている、ミロード連絡橋下の横断歩道。2025年7月2日夜、この「信号のない横断歩道」で一人の若者の命が奪われました。そして6日後、52歳の男が重い沈黙を破って警察署の扉を叩きました。
あなたの街にもある「死角」で起きた悲劇
7月8日、神奈川県警は小田急線本厚木駅前で発生した死亡ひき逃げ事件の容疑者として、茅ヶ崎市在住の無職、新井秀和容疑者(52歳)を逮捕しました。被害者は、アルバイトを終えて帰宅途中だった新城マテウス博一さん(28歳)。ブラジルから日本に来て、懸命に働いていた青年でした。
「猛スピードで逃げていった」目撃者が語る恐怖の瞬間
事件が起きたのは7月2日午後10時55分頃。現場は片側1車線のT字路交差点で、多くの住民が「いつか事故が起きる」と危惧していた場所でした。
項目 | 詳細 |
---|---|
発生日時 | 2025年7月2日 午後10時55分頃 |
発生場所 | 厚木市中町 本厚木駅前市道交差点 |
被害者 | 新城マテウス博一さん(28歳・ブラジル国籍) |
現場の特徴 | 信号機のない横断歩道 |
逮捕までの日数 | 6日間 |
「ドンという音がして振り返ったら、人が倒れていて、車は猛スピードで逃げていった」。近くの飲食店から出てきた会社員(42歳)は、その瞬間を鮮明に覚えています。
6日間の沈黙、そして自首へ
新井容疑者が警察署に現れたのは、事件から6日後の7月8日午後でした。「間違いありません」と容疑を認めた52歳の男性。この6日間、彼の心の中で何が起きていたのでしょうか。
逃走から自首までの心理的プロセス(専門家の分析):
- 1-2日目:パニックと現実逃避
- 3-4日目:罪悪感の増大と不安
- 5-6日目:家族や周囲からの説得、良心の限界
犯罪心理学の専門家は「ひき逃げ犯の多くは、最初の48時間以内に自首するか、そのまま逃げ切ろうとするかの分岐点を迎える」と指摘します。新井容疑者の6日間という期間は、激しい葛藤があったことを物語っています。
深夜の帰宅、外国人労働者が直面する危険
被害者の新城さんは、多くの在日ブラジル人と同様、製造業や飲食業で深夜まで働いていました。日本で働く外国人労働者は約200万人。その多くが深夜・早朝の移動を余儀なくされています。
見過ごされがちな「構造的リスク」
リスク要因 | 具体的な問題 | 影響を受ける人数(推計) |
---|---|---|
深夜労働 | 視認性の低下、運転者の疲労 | 約60万人 |
言語の壁 | 交通標識の理解不足 | 約120万人 |
居住地域 | 工業地帯周辺の交通インフラ不足 | 約80万人 |
交通手段 | 自転車・徒歩に依存 | 約100万人 |
厚木市内のブラジル人コミュニティのリーダーは語ります。「マテウスのような若者は、日本の発展を支える大切な仲間。彼らの安全を守ることは、日本社会の責任でもあるはずです」
あなたの街の「危険な横断歩道」は大丈夫?
本厚木駅の乗降客数は1日約15万人。駅周辺には同様の「信号なし横断歩道」が複数存在します。実は、このような危険箇所は全国に約34万箇所あると推計されています。
今すぐチェック!危険な横断歩道の特徴
- 信号機がない – 特に交通量の多い場所
- 見通しが悪い – カーブや建物の陰
- 照明が不十分 – 夜間の視認性が低い
- スピードが出やすい – 直線道路や下り坂
- 歩行者が多い – 駅や商業施設の近く
あなたにできる3つのアクション:
- 危険箇所を見つけたら市役所に通報(多くの自治体が専用窓口を設置)
- 町内会や自治会で「危険箇所マップ」を作成
- SNSで情報共有(#地域の危険箇所 のハッシュタグを活用)
ひき逃げ、その後の現実
加害者を待つ厳しい現実
新井容疑者を待ち受けるのは、最高15年の懲役刑。さらに民事での損害賠償は数千万円に及ぶ可能性があります。52歳無職という状況を考えると、その支払いは困難を極めるでしょう。
ひき逃げ死亡事故の量刑相場:
- 自首なし:実刑8-12年
- 自首あり:実刑5-8年
- 示談成立:執行猶予の可能性(まれ)
遺族への支援、知っておくべき制度
新城さんの遺族が受けられる支援:
支援制度 | 支給額 | 申請期限 |
---|---|---|
自賠責保険 | 最高3,000万円 | 3年以内 |
政府保障事業 | 自賠責相当額 | 3年以内 |
犯罪被害者給付金 | 約300-850万円 | 2年以内 |
労災保険(通勤災害) | 遺族年金等 | 5年以内 |
しかし、外国人遺族の場合、言語の壁により申請が困難なケースが多いのが現実です。厚木市では、ボランティア通訳による支援体制を緊急整備する方針を発表しました。
もし、あなたが事故を起こしてしまったら
誰もが加害者になりうる。これが交通事故の恐ろしさです。もし事故を起こしてしまった場合の「正しい5つの行動」を改めて確認しましょう。
- 直ちに停車 – ハザードランプ点灯、エンジン停止
- 負傷者の救護 – 119番通報、安全な場所へ移動
- 警察への通報 – 110番、事故状況を正確に伝達
- 証拠の保全 – 写真撮影、目撃者の確保
- 保険会社へ連絡 – 24時間以内に報告
絶対にやってはいけないこと:
- その場から立ち去る(ひき逃げは重罪)
- 被害者と示談交渉(保険会社を通すこと)
- 事実と異なる説明(後で必ずばれる)
本厚木駅前は変わるのか
事件を受けて、厚木市は緊急対策を発表しました:
- 8月まで:事故現場への信号機設置工事
- 9月まで:駅周辺5箇所の横断歩道に信号機追加
- 年内:LED街灯50基の増設
- 来年度:AI搭載型防犯カメラ20台設置
石破首相も「地方都市の交通安全対策は国の重要課題」として、全国一斉点検を指示。特に外国人労働者の多い地域での対策強化を打ち出しました。
28歳の命が問いかけるもの
新城マテウス博一さん。ブラジルから日本に来て、真面目に働き、将来は家族を日本に呼び寄せる夢を持っていたといいます。その夢は、信号のない横断歩道で断ち切られました。
そして52歳の新井秀和容疑者。一瞬の判断ミスと6日間の逃走が、彼の人生も大きく狂わせることになりました。
この事件は、私たちに多くのことを問いかけています。地域の安全は誰が守るのか。外国人労働者の命の重さをどう考えるのか。そして、私たち一人一人の運転に対する責任とは何か。
今、あなたにできることがあります。
まず、自分の街の危険な場所を見つけて通報すること。そして、ハンドルを握る時は「もしかしたら」の意識を持つこと。歩く時は「見られているか」を確認すること。
新城さんの命を無駄にしないために。そして、第二の新井容疑者を生まないために。
本厚木駅前の横断歩道は、今も多くの人が行き交っています。願わくば、二度とこのような悲劇が起きませんように。