「台湾は台湾!」セブンイレブンの投稿が即炎上
「台湾人です。もうセブン行くのやめた」――2025年7月11日、セブン&アイ・ホールディングスの公式X投稿に対する、ある台湾人ユーザーの怒りのコメントが1万件以上の「いいね」を集めた。きっかけは、「セブンイレブンの日」を記念して投稿された世界19か国・地域の店舗ユニフォーム紹介画像。そこには「中国(台湾)」という、多くの人々の神経を逆なでする表記が含まれていたのだ。
投稿からわずか数時間で、日本と台湾の両方から批判の声が殺到。「台湾は台湾だ」「なぜ中国の一部として扱うのか」といった怒りのコメントが相次ぎ、リポスト数は通常の投稿の10倍以上に膨れ上がった。特に台湾のユーザーからは「もうセブンには行かない」という強い反発の声が上がり、不買運動を呼びかける投稿も拡散され始めた。
削除と謝罪も火に油を注ぐ結果に
批判の嵐を受けて、セブン&アイ・ホールディングスは同日夜に該当投稿を削除。しかし、スクリーンショットは既に数万回シェアされており、削除は「証拠隠滅」として更なる批判を招いた。
翌朝に発表された謝罪文も、問題を悪化させることになった。「この度の投稿は配慮に欠けるものであり、会社として真摯に受け止めております」という内容に対し、「何が問題だったのか理解していない」「台湾=中国という前提自体が間違いだと認識していない」という指摘が相次いだ。
なぜ今回の表記が大問題になったのか
1. 日常的な「台湾推し」との矛盾
セブンイレブンは日本国内で「台湾まぜそば」「台湾カステラ」「台湾風唐揚げ」など、「台湾」の名を冠した商品を多数販売している。これらの商品では「台湾」を独立したブランドとして扱いながら、国際的な場面では「中国の一部」として扱うという二重基準に、多くの消費者が怒りを感じた。
「商売の時は『台湾』を使って、政治的な場面では『中国』扱い。これは台湾の人々に対する侮辱だ」という意見が、数千件の「いいね」を集めた。
2. ハワイとの扱いの差
同じ投稿内で、ハワイは独立した地域として表記されていたことも批判の的となった。「ハワイはアメリカの州なのに独立表記で、なぜ台湾は中国の一部扱いなのか」という指摘は、セブン側の政治的配慮の不均衡さを浮き彫りにした。
3. 企業資料でも同様の表記が発覚
炎上をきっかけに、ネットユーザーたちはセブン&アイ・ホールディングスの過去の資料を調査。その結果、投資家向け資料や年次報告書でも「中国(台湾)」という表記が使用されていることが判明し、「これは単なるミスではなく、会社の方針だ」という批判が強まった。
台湾表記問題の背景にある複雑な事情
中国市場への配慮という現実
国際企業が台湾を独立した地域として扱うと、中国政府や中国市場から強い圧力を受けることは周知の事実だ。2019年にはヴェルサーチェがTシャツのデザインで台湾を独立国として扱い、中国で大規模な不買運動に発展。同様の事例は枚挙にいとまがない。
中国政府は2018年以降、44以上の国際航空会社に対して、ウェブサイト上で台湾を「中国台湾」と表記するよう圧力をかけており、多くの企業がこれに従っている。セブン&アイ・ホールディングスも、中国での事業展開を考慮して同様の対応を取ったと推測される。
日本企業特有のジレンマ
しかし、日本企業にとって台湾は特別な存在だ。親日的な国として知られ、東日本大震災では世界最大規模の義援金を送ってくれた台湾。多くの日本人が台湾に親近感を持ち、観光や文化交流も盛んだ。そんな台湾を「中国の一部」として扱うことに、多くの日本人が違和感を覚えるのは自然なことだろう。
SNS時代の企業リスク管理の難しさ
瞬時に拡散する批判の連鎖
今回の炎上で特筆すべきは、その拡散スピードだ。投稿から1時間以内に批判的な引用リポストが1000件を超え、3時間後には関連ハッシュタグがトレンド入り。削除までの約8時間で、推定300万人以上がこの問題を認知したと見られる。
特にZ世代を中心とした若年層は、企業の政治的スタンスに敏感だ。「企業の社会的責任」を重視する彼らにとって、今回のような「日和見的」な態度は許容できないものだった。
謝罪の失敗がもたらす二次炎上
デジタルPRの専門家は、今回のセブンの対応を「教科書的な失敗例」と評する。問題の本質を理解せずに形式的な謝罪を行ったことで、かえって批判を増幅させてしまった。
「削除して謝罪すれば収まる」という20世紀的な危機管理は、もはや通用しない。むしろ、問題の本質を理解し、具体的な改善策を示すことが求められる時代になっている。
実際の影響:数字で見る炎上の威力
SNS上の反応
- 批判的な投稿:推定5万件以上(7月11日〜13日)
- 「#セブン不買」のハッシュタグ使用:1.2万件
- 台湾からの批判投稿:全体の約35%
- 炎上関連の総インプレッション数:推定5000万以上
実店舗への影響
SNS上では台湾在住者による「今日からファミリーマートに乗り換える」という投稿が相次ぎ、実際に台北市内のセブンイレブンでは、炎上翌日の来店客数が前週比で約15%減少したという非公式な情報も流れている。ある台北在住の日本人は「普段は混雑している駅前のセブンイレブンが、明らかに空いていた。レジ前の列がほとんどない光景は初めて見た」とSNSに投稿した。
日本国内でも影響は広がっている。東京都内の大学近くのセブンイレブン店員は「台湾人の常連さんが『もう来ない』と言って去っていった。毎日コーヒーを買ってくれていたのに」と肩を落とす。実際、台湾人留学生が多い地域の店舗では、コーヒーやスイーツなどの売上が目に見えて減少しているという。
他企業の対応から学ぶべき教訓
成功例:曖昧さを残す表記
多くのグローバル企業は、この問題を回避するために「Taiwan」または「台湾」とだけ表記し、国や地域といった分類を明示しない方法を採用している。アップルやマイクロソフトなどのIT企業は、この方法で両方の市場からの批判を最小限に抑えることに成功している。
失敗例:どちらかに偏った表記
一方、明確に「中国台湾」と表記したり、逆に台湾を独立国として扱ったりした企業は、必ずどちらかの市場で大きな反発を受けている。2023年にはある航空会社が台湾を「国」として表記したことで、中国での営業許可を一時停止される事態にまで発展した。
今後の展望:企業に求められる新たなバランス感覚
消費者意識の変化
今回の炎上は、消費者の意識が大きく変化していることを示している。特に若い世代は、企業の政治的スタンスや社会的責任を重視し、それが購買行動に直結する。「安くて便利」だけでは、もはや消費者の支持を得られない時代になっているのだ。
グローバル企業のジレンマ
中国市場の巨大さは無視できない一方で、民主主義的価値観を共有する国々からの批判も避けたい。このジレンマは今後さらに深刻化すると予想される。企業は、短期的な利益と長期的なブランド価値のバランスを、これまで以上に慎重に考える必要があるだろう。
結論:小さな表記が示す大きな問題
「中国(台湾)」というたった6文字の表記が、これほど大きな炎上を引き起こしたことは、現代社会の複雑さを象徴している。企業にとって、政治的中立性を保つことは、もはや不可能に近い。どのような選択をしても、誰かから批判を受ける可能性がある。
しかし、だからこそ企業は自らの価値観を明確にし、それに基づいた一貫性のある行動を取る必要がある。中途半端な配慮や、場当たり的な対応は、結果として全ての関係者からの信頼を失うことになる。
セブンイレブンの今回の炎上は、グローバル化時代における企業コミュニケーションの難しさを改めて浮き彫りにした。この教訓を、他の企業がどう活かしていくのか。それが、今後の企業と社会の関係を左右することになるだろう。
企業への提言
最後に、同様の問題を避けるための具体的な提言をまとめておく:
- 事前のリスク評価:政治的に敏感な内容を含む投稿は、必ず複数の視点からチェックする
- 一貫性の確保:商品名での表記と公式文書での表記を統一する
- 透明性のある対応:問題が発生した場合は、その理由と今後の方針を明確に説明する
- 継続的な対話:一度の謝罪で終わらせず、関係者との対話を継続する
- 価値観の明確化:企業として大切にする価値観を明確にし、それに基づいた行動を取る
グローバル化が進む現代において、企業は単なる利益追求組織ではなく、社会的な存在としての責任を問われている。その責任をどう果たしていくか。セブンイレブンの炎上は、全ての企業に対する重要な問いかけとなったのである。