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日産追浜工場27年度末閉鎖も2400人の雇用は維持へ

2025年7月15日、日産自動車は神奈川県横須賀市にある追浜工場での車両生産を2027年度末までに終了すると発表した。約2400人の従業員の雇用は維持され、他拠点への配置転換などで対応する方針だ。しかし、60年以上にわたり地域経済を支えてきた工場の閉鎖は、横須賀市や関連企業に大きな影響を与えることは避けられない。

従業員と家族が最も気になる3つのポイント

今回の発表で最も影響を受ける従業員とその家族にとって、特に重要な3つのポイントを整理する:

  1. 雇用は本当に守られるのか:日産は「雇用維持」を明言。九州への転勤を望まない従業員には、栃木工場やいわき工場への配置転換も選択肢として提示される見込み。
  2. 子供の進学・就職への影響:地元での就職を希望していた高校生・大学生にとっては計画の見直しが必要に。市は就職支援プログラムを強化する方針。
  3. 住宅ローンなど生活設計への影響:転勤に伴う単身赴任や引っ越しなど、家計への影響は避けられない。会社側は転勤支援金の支給を検討中。

衝撃の発表、その背景にあるもの

日産のイワン・エスピノサ社長は発表に際し、「非常に苦しい決断だった。成長軌道に戻るために、やり抜かなければならない」と述べた。この決断の背景には、追浜工場の深刻な稼働率の低迷がある。調査会社マークラインズによると、2024年の同工場の稼働率はわずか40%に留まっており、損益分岐点とされる80%を大きく下回っている状況だった。

日産は「生産能力やコスト競争力の観点から、生産を移管・統合することが最も効率的と判断した」と説明している。これは、自動車業界全体が電動化への移行と激しい価格競争に直面する中での、苦渋の決断といえるだろう。

追浜工場の輝かしい歴史

追浜工場は1961年に操業を開始し、日産の主力工場として60年以上にわたって日本の自動車産業を支えてきた。現在は主に「ノート」と「ノート オーラ」を生産しており、約2400人の従業員が働いている。

項目 詳細
開業年 1961年
所在地 神奈川県横須賀市
従業員数 約2,400人
現在の生産車種 ノート、ノート オーラ
2024年稼働率 40%
生産終了時期 2027年度末

同工場は、日産の技術革新の拠点としても重要な役割を果たしてきた。1960年代には「ダットサン・ブルーバード」、1970年代には「フェアレディZ」など、日本の自動車史に名を刻む数々の名車を生み出してきた。また、1980年代以降は生産技術の革新にも取り組み、ロボット導入による自動化を先駆的に進めた工場としても知られている。

国内生産体制の大規模再編

今回の決定は、日産が2025年5月に発表した世界規模でのリストラクチャリング計画の一環である。同計画では、世界で2万人の人員削減と、車両工場を17カ所から10カ所に削減することが含まれている。国内での大規模な生産能力削減は、2001年の村山工場閉鎖以来、約26年ぶりとなる。

日産の国内生産拠点の現状と将来

  • 継続する工場
    • 日産自動車九州(福岡県苅田町)- 追浜工場の生産を引き継ぎ
    • 栃木工場(栃木県上三川町)
    • いわき工場(福島県いわき市)
  • 生産終了予定の工場
    • 追浜工場(神奈川県横須賀市)- 2027年度末
    • 湘南工場(神奈川県平塚市)- 2026年度末(既に発表済み)

この再編により、日産の国内生産体制は大きく変わることになる。特に、創業の地である神奈川県から車両生産拠点が完全に消えることは、地域経済にも大きな影響を与えることが予想される。

従業員への影響と今後の対応

追浜工場で働く約2400人の従業員の処遇について、日産は「雇用は維持する」と明言している。具体的には以下のような対応が検討されている:

  1. 配置転換:日産自動車九州や他の国内拠点への異動
  2. 早期退職制度:希望者への退職金上乗せなどの優遇措置
  3. 再就職支援:関連会社や地域企業への就職斡旋
  4. 研修・教育プログラム:新たなスキル習得のための支援

労働組合との協議も既に始まっており、従業員の不安を最小限に抑えるための取り組みが進められている。

追浜工場跡地の活用案

エスピノサ社長は、生産終了後の追浜工場の活用について「まだ決まっていない」としながらも、「最適な活用方法を検討していく」と述べた。現在検討されている案には以下のようなものがある:

1. 電気自動車(EV)関連施設への転換

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との協議が進められており、EV生産や関連部品の製造拠点として活用する可能性が浮上している。これは、日産が進める電動化戦略とも合致する選択肢だ。

2. 研究開発拠点の拡充

追浜地区には既に研究所や衝突実験施設があり、これらの機能を拡充して、次世代モビリティの開発拠点として活用する案も検討されている。特に自動運転技術やコネクテッドカー技術の研究開発には、広大な敷地と既存のインフラが活用できる。

3. 物流・サービス拠点への転換

追浜専用埠頭は継続使用されることが決まっており、これを活かした物流拠点や、アフターサービスの中核施設として活用する可能性もある。

地域経済への影響と対策

追浜工場の閉鎖は、横須賀市を中心とした地域経済に大きな影響を与えることが予想される。同工場は地域の雇用を支える重要な存在であり、関連する下請け企業も多数存在している。

予想される影響

  • 直接的影響:約2400人の雇用の流出可能性
  • 間接的影響:部品メーカーや物流業者など関連企業への波及
  • 税収への影響:法人税、固定資産税の減少
  • 消費への影響:地域の購買力低下

地域の対応

横須賀市は既に対策チームを立ち上げ、以下のような取り組みを検討している:

  1. 企業誘致の強化:跡地への新規企業の誘致活動
  2. 雇用支援:転職支援セミナーや職業訓練の実施
  3. 地域産業の多様化:自動車産業に依存しない産業構造への転換
  4. 観光振興:工場見学ツアーなど産業観光の推進

日本の自動車産業が直面する課題

今回の日産の決定は、日本の自動車産業全体が直面している構造的な課題を浮き彫りにしている。

1. 電動化への対応

世界的なEVシフトが加速する中、従来のエンジン車生産設備の余剰が問題となっている。日産も2030年までに新車販売の50%をEVにする目標を掲げており、生産体制の抜本的な見直しが必要となっている。

2. グローバル競争の激化

中国メーカーの台頭や、テスラなど新興EVメーカーとの競争が激化している。コスト競争力の強化が急務となっており、生産拠点の集約は避けられない状況だ。

3. 国内市場の縮小

少子高齢化により国内の新車販売台数は減少傾向にある。2024年の国内新車販売台数は約420万台と、ピーク時の1990年(約780万台)から半減近くまで落ち込んでいる。

4. サプライチェーンの再編

半導体不足やコロナ禍での部品供給問題を経験し、サプライチェーンの見直しが進んでいる。より効率的で柔軟な生産体制の構築が求められている。

他の自動車メーカーの動向

日産だけでなく、他の日本の自動車メーカーも生産体制の見直しを進めている。

メーカー 最近の動向
トヨタ自動車 国内工場の稼働率向上に向けた生産車種の最適化を推進
ホンダ 狭山工場を2022年に閉鎖、寄居工場に生産を集約
マツダ 防府工場でのEV専用ライン設置を発表
三菱自動車 岡崎工場でのEV生産開始を計画

各社とも、電動化への対応と生産効率の向上を両立させるための取り組みを進めており、今後も業界再編の動きは続くと予想される。

追浜工場閉鎖がもたらす新たな可能性

工場閉鎖は確かに地域にとって大きな打撃となるが、同時に新たな可能性も秘めている。

1. イノベーションハブとしての再生

広大な敷地と既存のインフラを活用し、スタートアップ企業や研究機関が集まるイノベーションハブとして再開発する構想も浮上している。自動車産業で培われた技術力を、新たな産業創出に活かすことができる。

2. グリーン産業の拠点化

再生可能エネルギーや環境技術関連の企業を誘致し、カーボンニュートラルに貢献する産業拠点として生まれ変わる可能性もある。

3. 複合型都市開発

商業施設、住宅、オフィスなどを組み合わせた複合型の都市開発により、新たな雇用と賑わいを創出することも考えられる。

まとめ:日本製造業の転換点

日産追浜工場の生産終了は、単なる一企業の経営判断を超えて、日本の製造業が直面する大きな転換点を象徴している。グローバル化、デジタル化、脱炭素化という三つの大きな潮流の中で、従来の生産体制や雇用慣行の見直しが迫られている。

しかし、これは終わりではなく、新たな始まりでもある。日本の製造業が持つ高い技術力と品質へのこだわりは、形を変えながらも次世代に受け継がれていくだろう。追浜工場で培われた技術と人材が、新たな場所で、新たな形で日本の産業を支えていくことを期待したい。

地域社会、従業員、そして日本の自動車産業全体にとって、この転換期をどう乗り越えていくかが、今後の大きな課題となる。官民が協力し、痛みを最小限に抑えながら、新たな成長への道筋を見出していくことが求められている。

投稿者 hana

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