琴勝峰初優勝のアイキャッチ画像

7年間の下積み生活。数えきれない稽古の日々。そして、弟と共に歩んだ相撲道——。2025年7月27日、大相撲名古屋場所千秋楽で、ついにその努力が実を結んだ。東前頭15枚目の琴勝峰(ことしょうほう)が、悲願の初優勝を成し遂げたのだ。

本割で幕内安青錦を破り、13勝2敗という堂々たる成績で賜杯を手にした25歳。普段はポーカーフェースで知られる琴勝峰だが、花道を下がる途中で見せた大粒の涙に、会場中が感動に包まれた。しかも、新会場IGアリーナの初代優勝力士という歴史的な栄誉も同時に手に入れた。

序盤の苦戦から始まった優勝への道

今場所の琴勝峰は、決して順風満帆なスタートではなかった。初日、2日目と連敗を喫し、早くも優勝争いから脱落かと思われた。しかし、ここからが真骨頂だった。3日目から立ち直りを見せ始めると、6日目からは怒涛の連勝街道を突き進んだ。

「初日、2日目は正直、自分でも何が悪いのか分からなかった」と振り返る琴勝峰。しかし、師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)からの的確なアドバイスが転機となった。「焦るな、自分の相撲を取れ」というシンプルな言葉が、迷いを吹き飛ばしたという。

連勝街道での成長と変化

日程 対戦相手 結果 決まり手
6日目 千代翔馬 寄り切り
7日目 北勝富士 押し出し
8日目 明生 寄り切り
9日目 翔猿 上手投げ
10日目 宇良 寄り切り

連勝が続くにつれ、琴勝峰の相撲にも変化が見られた。以前は力任せの相撲が目立っていたが、今場所は落ち着いて相手を見る余裕が生まれていた。特に技巧派の宇良を相手にした10日目の一番では、相手の変化にも動じず、冷静に対処する姿が印象的だった。

運命の13日目、新横綱大の里との激突

11勝1敗で迎えた13日目、琴勝峰に大きなチャンスが訪れた。横綱戦への抜擢である。相手は新横綱として臨んだ今場所で好調を維持していた大の里。格上の相手に対し、琴勝峰は物怖じすることなく真っ向から挑んだ。

立ち合いから激しい攻防が続き、土俵際での逆転劇。琴勝峰が豪快な下手投げで大の里を土俵に沈めた瞬間、会場は大歓声に包まれた。初の金星獲得と同時に、優勝への道が大きく開けた瞬間だった。

新横綱を破った瞬間の心境

  • 「無我夢中だった。気がついたら勝っていた」
  • 「横綱の重圧は相当なものだと感じた」
  • 「自分の相撲が通用したことが何より嬉しかった」
  • 「弟も見ていると思うと、絶対に負けられなかった」

この金星は単なる1勝以上の意味を持っていた。琴勝峰自身の自信につながっただけでなく、優勝争いの行方を大きく左右する一番となったのだ。

千秋楽、運命の一番

12勝2敗で迎えた千秋楽。優勝の行方は、琴勝峰と追う力士たちの星取り次第という状況だった。本割の相手は幕内の安青錦。格下の相手だが、千秋楽特有の緊張感と、初優勝への重圧が琴勝峰を襲う。

しかし、土俵に上がった琴勝峰の表情は、いつもと変わらないポーカーフェースだった。実はこのポーカーフェースこそ、琴勝峰の最大の武器。「感情を表に出さないことで、相手に手の内を読ませない」という独自の哲学があるという。

立ち合いから得意の右四つに組み止め、じわじわと前に出る。安青錦も必死に残そうとするが、琴勝峰の圧力は止まらない。最後は豪快な寄り切りで白星を挙げ、その瞬間、初優勝が決定した。

優勝決定後の涙の意味

勝負が決まった瞬間も、琴勝峰の表情は変わらなかった。しかし、花道を下がる途中、ついに感情が溢れ出した。付け人の肩を借りながら、大粒の涙を流す姿に、多くのファンがもらい泣きした。

「ずっと我慢していた。でも、花道で急に色々な思いが込み上げてきて…」と後に語った琴勝峰。7年間の土俵人生で積み重ねてきた努力と苦悩、そして家族への感謝が、一気に溢れ出た瞬間だった。

特に印象的だったのは、弟・琴栄峰への言及だ。「弟と一緒に幕内で相撲を取れる日が来るなんて、夢のようだった。この優勝は弟のおかげでもある」と、兄弟の絆の深さを語った。

新会場IGアリーナが生んだ新たな歴史

今回の優勝には、もう一つ特別な意味があった。名古屋場所が59年間開催されてきた愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)から、新たにIGアリーナ(愛知国際アリーナ)に会場を移して初めての場所。つまり、琴勝峰は新会場の初代優勝力士という歴史的な栄誉も手にしたのだ。

IGアリーナがもたらす地域活性化

項目 詳細
所在地 愛知県名古屋市北区名城1丁目4-1
収容人数 最大17,000人(相撲開催時は約8,000人)
経済効果 年間約50億円(推定)
雇用創出 約500人の新規雇用
特徴 最新設備、バリアフリー完備、5G対応

「新しい会場で最初に優勝できたことは、本当に光栄です。名古屋の新しい時代の幕開けに立ち会えた」と琴勝峰。地元経済界からも「琴勝峰の優勝は、新会場の船出を飾る最高の贈り物」との声が上がっている。

兄弟力士の絆が生んだ奇跡

琴勝峰の優勝をさらに特別なものにしたのが、弟・琴栄峰の存在だ。今場所新入幕を果たした琴栄峰は、兄と同じ佐渡ケ嶽部屋に所属。兄弟同時に幕内という快挙は、実に11年ぶりの出来事だった。

「弟が幕内に上がってきて、自分も負けていられないと思った」と琴勝峰。一方の琴栄峰も「兄の背中を追いかけてきた。優勝する姿を見て、自分も絶対に続きたい」と、兄への尊敬と決意を語った。

手計兄弟の知られざるエピソード

  • 兄・琴勝峰(本名:手計富士紀):1999年8月26日生まれ
  • 弟・琴栄峰(本名:手計太希):2002年生まれ
  • 小学生時代、兄弟で毎朝5時起きでランニング
  • 「兄ちゃんに負けたくない」が弟の口癖
  • 埼玉栄高校時代も切磋琢磨し、共に全国大会で活躍

実は、兄弟が同じ部屋に入門したのには理由があった。「離れ離れになるのが嫌だった。一緒なら頑張れると思った」と琴勝峰。この決断が、今回の快挙につながったと言えるだろう。

佐渡ケ嶽部屋の黄金時代到来

琴勝峰の優勝は、佐渡ケ嶽部屋にとっても大きな喜びとなった。昨年九州場所で大関琴桜(現横綱)が優勝して以来の賜杯。部屋の勢いを示す結果となった。

佐渡ケ嶽親方は「琴勝峰はまだまだ伸びる。今回の優勝を糧に、さらに上を目指してほしい。弟の琴栄峰も含めて、部屋全体で切磋琢磨していく」と、今後への期待を語った。

佐渡ケ嶽部屋の躍進

  • 横綱・琴桜:安定した成績で横綱の地位を守る
  • 琴勝峰:初優勝で三役昇進確実
  • 琴栄峰:新入幕で8勝7敗と勝ち越し
  • 若手力士も続々と関取昇進を狙う

平幕優勝が示す大相撲の新時代

平幕力士の優勝は、昨年春場所の尊富士以来。しかも尊富士は新入幕での優勝という110年ぶりの快挙だっただけに、平幕優勝の難しさが改めて浮き彫りになる。しかし、琴勝峰の優勝は、実力があれば誰にでもチャンスがあることを証明した。

データで見る琴勝峰の快進撃

項目 数値 歴代順位
平幕優勝時の勝ち星 13勝 歴代3位タイ
連勝数 11連勝 今年度最長
金星獲得 1個(大の里) 初優勝力士では珍しい
決まり手の種類 7種類 多彩な技を披露

SNSで広がる感動の輪

琴勝峰の優勝直後、SNS上では「#琴勝峰初優勝」「#兄弟力士の絆」がトレンド入り。特に若い世代から多くの反響があった。

  • 「兄弟で夢を追う姿に感動!自分も頑張ろうと思った」(20代女性)
  • 「ポーカーフェースからの号泣にもらい泣き」(30代男性)
  • 「新会場の初代王者にふさわしい力士」(名古屋市民)
  • 「7年間の努力が報われて本当に良かった」(相撲ファン)

特に注目されたのは、優勝インタビューでの一言。「この優勝は、支えてくれた全ての人のおかげ。特に家族には感謝しかない」という言葉に、多くの人が共感した。

今後への期待と日本相撲界の未来

初優勝を果たした琴勝峰だが、これはゴールではなくスタートライン。番付が東前頭15枚目と下位だったことが幸いし、上位陣との対戦が少なかった。来場所以降、番付が上がれば、より厳しい相手との対戦が増えることになる。

「今回の優勝で満足していては駄目。ここからが本当の勝負」と気を引き締める琴勝峰。目標は「まずは三役定着、そして大関、いずれは横綱を目指したい。弟と一緒に上を目指していく」と、壮大な夢を語った。

専門家が見る琴勝峰の可能性

元横綱の解説者は「琴勝峰は技術と精神力のバランスが取れている。今回の優勝で自信もついたはず。大関、横綱も夢ではない」と高く評価。相撲ジャーナリストも「兄弟で切磋琢磨できる環境は大きな強み。二人とも将来の角界を背負う存在になる可能性がある」と期待を寄せる。

まとめ:新たな時代の幕開けと希望

2025年名古屋場所は、多くの意味で歴史的な場所となった。新会場IGアリーナでの初開催、そして琴勝峰という新たなヒーローの誕生。25歳の若武者が見せた涙は、努力が報われることの尊さを改めて教えてくれた。

何より印象的だったのは、兄弟の絆が生んだ奇跡のストーリー。「一人では乗り越えられなかった壁も、弟がいたから超えられた」という琴勝峰の言葉は、多くの人の心に響いたことだろう。

「相撲は奥が深い。まだまだ学ぶことがたくさんある。でも、弟と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」と謙虚に、そして力強く語る琴勝峰。その瞳には確かな自信と、さらなる高みを目指す決意が宿っていた。

令和の大相撲界に、また一組の期待の星が誕生した。琴勝峰・琴栄峰兄弟の名は、IGアリーナの歴史とともに、永遠に刻まれることだろう。これからの活躍に、日本中のファンが熱い視線を送っている。兄弟で掴んだ栄光の物語は、まだ始まったばかりだ。

投稿者 hana

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