あなたや家族を救うかもしれない大発見!ノーベル賞が証明した希望

がん、リウマチ、1型糖尿病—これらの難病に苦しむ患者や家族にとって、2025年10月6日は希望の日となるかもしれません。スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表したノーベル生理学・医学賞の受賞者に、大阪大学の坂口志文特任教授(74歳)が選ばれたのです。

坂口氏が発見した「制御性T細胞」は、免疫システムの「ブレーキ役」として働く特殊な細胞です。この発見は、従来の治療法では効果が限られていた病気に対する、全く新しいアプローチを可能にします。実際、世界中の製薬企業が実用化に向けて動き出しており、5〜10年以内に新しい治療法として患者の元に届く可能性があります。

米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウ氏、米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデル氏との共同受賞となった今回のノーベル賞は、40年にわたる基礎研究の集大成であり、日本の科学技術力の高さを世界に示すものです。

制御性T細胞とは何か?免疫システムの「ブレーキ役」

私たちの体には、ウイルスや細菌から身を守る免疫システムがあります。しかし、この免疫システムが暴走すると、自分自身の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」を引き起こします。リウマチや1型糖尿病、炎症性腸疾患などがその例です。

制御性T細胞(regulatory T cell、通称Treg)は、この免疫システムに「ブレーキ」をかける役割を果たす特殊な細胞です。免疫反応が過剰にならないよう抑制し、自分の体を攻撃しないようバランスを保っています。

坂口氏は1980年代からこの細胞の存在を示唆する研究を始め、1995年に制御性T細胞の存在を明確に証明する論文を発表しました。この発見は当初、免疫学界で大きな議論を呼びましたが、その後の研究で裏付けられ、今では免疫学の基礎として確立されています。

Foxp3遺伝子の発見:制御性T細胞のマスタースイッチ

2003年、坂口氏の研究チームは、制御性T細胞の働きに欠かせない「Foxp3(フォックス・ピー・スリー)」という遺伝子を発見しました。この遺伝子は、制御性T細胞の成長や機能を制御する「マスター転写因子」として働きます。

共同受賞者である米国の2氏も、自己免疫疾患に関わるFoxp3遺伝子の研究を進め、後に坂口氏らとの研究で、Foxp3が制御性T細胞の働きに不可欠であることが突き止められました。

このFoxp3の発見により、制御性T細胞を人工的に作り出したり、その働きを制御したりする道が開かれ、実際の医療への応用に向けた研究が一気に加速しました。

がん治療への応用:免疫のブレーキを外してがん細胞を攻撃

坂口氏は10月17日の取材で「まず様々ながん治療の分野で制御性T細胞の応用が進むことを期待している」と語りました。実際、制御性T細胞のがん治療への応用研究は、すでに実用化段階に入っています。

がん組織の周辺には、制御性T細胞が集まっています。この細胞が「免疫のブレーキ」として働くため、本来がん細胞を攻撃すべき他の免疫細胞の働きが抑えられてしまいます。そこで、がん治療では逆に、この制御性T細胞を取り除いたり、働きを抑えたりすることで、免疫細胞にがん細胞を攻撃させやすくする方法が研究されています。

中外製薬は坂口氏との共同研究を起点に、制御性T細胞をターゲットにした治療法の開発を進めています。2025年3月には、大阪大学免疫学フロンティア研究センターと中外製薬の共同研究で、Foxp3タンパク質を制御する新たな仕組みが発見され、Nature誌に発表されました。

アストラゼネカも、2023年に制御性T細胞を利用した治療法の開発を目指す英バイオベンチャーQuell Therapeuticsとライセンス契約を締結し、研究開発を加速させています。

自己免疫疾患・アレルギー治療への期待

制御性T細胞の働きを強化すれば、自己免疫疾患やアレルギーの治療にも応用できます。患者から制御性T細胞を取り出し、体外で増殖させてから体内に戻す「Treg細胞療法」が、世界中で臨床試験段階に入っています。

具体的には、リウマチ、1型糖尿病、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)、喘息などへの応用が期待されています。また、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤としての利用も研究されています。

現在の課題は、安定した制御性T細胞を体外で効率的に作製する技術の確立です。この課題を克服するため、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から制御性T細胞を作る研究も進められています。

坂口志文氏の研究者人生:京都から大阪へ、そして世界へ

坂口志文氏は1951年1月19日生まれ。1976年に京都大学医学部を卒業後、京大病理、愛知がんセンター研究所、京大免疫研究施設を経て、1983年に医学博士を取得しました。学位論文のテーマは「胸腺摘出によるマウス自己免疫性卵巣炎の細胞免疫学的研究」で、すでにこの時期から免疫抑制メカニズムに注目していました。

その後、1983年にジョンズ・ホプキンス大学、1987年にスタンフォード大学、1989年にスクリプス研究所、1991年にカリフォルニア大学サンディエゴ校など、米国の名門研究機関で研究を重ねました。

1999年に京都大学再生医科学研究所教授に就任し、2007年には同研究所長を務めました。2010年からは大阪大学に移り、免疫学フロンティア研究センター教授に就任。2017年には大阪大学栄誉教授となり、2025年には同大学特別栄誉教授に就任しました。

日本人ノーベル賞受賞者として:29人目の快挙

今回の受賞で、日本人のノーベル賞受賞者は、米国籍取得者を含めて29人目となりました。生理学・医学賞としては、2018年の本庶佑・京都大学特別教授(がん免疫療法の開発)以来7年ぶり6人目の受賞です。

日本のノーベル賞受賞は、昨年の日本被団協(核兵器廃絶国際キャンペーン:ICAN)に続いて2年連続です。坂口氏の受賞により、日本の基礎研究の強さが改めて世界に示されました。

授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金の1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)を3人で分け合います。

国際的な評価と今後の展望

カロリンスカ研究所のノーベル委員会は、「制御性T細胞の発見は、免疫システムがどのように自己と非自己を区別するかという基本的な問題に答えるものであり、自己免疫疾患、アレルギー、がんなど、多くの疾患の治療に新たな道を開いた」と評価しています。

CNNは「制御性T細胞を特定したことで、免疫システムの理解が大きく前進し、多くの疾患治療への応用が期待される」と報じました。

坂口氏は10月6日の記者会見で「受賞を機会に研究が進み、臨床応用できる方向に進展するのを望んでいる」と語りました。ノーベル賞受賞により、制御性T細胞研究への投資と注目が一層高まることが期待されます。

私たちの生活にどう影響するのか?

制御性T細胞の研究成果は、すでに私たちの生活に影響を与え始めています。

がん治療の分野では、免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボなど)が実用化され、多くのがん患者の命を救っています。これらの薬剤は、制御性T細胞などによる「免疫のブレーキ」を解除することで、がん細胞への攻撃を強化します。

今後5〜10年以内に、制御性T細胞を直接標的とした新しいがん治療薬や、Treg細胞療法による自己免疫疾患治療が実用化される可能性があります。リウマチや1型糖尿病などの難病患者にとって、根本的な治療法となることが期待されています。

また、臓器移植後の拒絶反応を抑える新しい免疫抑制法として、現在の免疫抑制剤(副作用が強い)に代わる、より安全な治療法の開発も進んでいます。

製薬企業の動き:実用化に向けた世界的競争

制御性T細胞を標的とした治療法の開発は、世界中の製薬企業が注目する「次世代医療」の最前線です。日本企業も積極的に参入しています。

中外製薬は2010年代から坂口氏との共同研究を続けており、Foxp3を制御する新規化合物の開発を進めています。同社の広報担当者は「坂口先生のノーベル賞受賞は、我々の研究開発の方向性が正しかったことを証明するものです。今後も臨床応用に向けた研究を加速させます」とコメントしています。

海外企業では、アストラゼネカが英Quell Therapeuticsと提携し、CAR-Treg(キメラ抗原受容体制御性T細胞)療法の開発を進めています。この技術は、がん治療で話題のCAR-T細胞療法を制御性T細胞に応用したもので、自己免疫疾患への効果が期待されています。

米国のソノマ・バイオセラピューティクス(共同受賞者ラムズデル氏の所属企業)も、制御性T細胞を用いた細胞療法の商業化を目指しています。

臨床試験の現状:世界で進む実用化研究

制御性T細胞を使った治療法の臨床試験は、世界各地で実施されています。

英国のキングス・カレッジ・ロンドンでは、腎臓移植患者を対象にTreg細胞療法の臨床試験が行われ、免疫抑制剤の投与量を減らせる可能性が示されました。従来の免疫抑制剤は感染症リスクや腎毒性などの副作用がありましたが、Treg細胞療法はより安全な代替手段となる可能性があります。

米国では、1型糖尿病患者を対象とした臨床試験が進行中です。発症早期の患者に制御性T細胞を投与することで、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の破壊を食い止められるかが検証されています。

日本国内でも、大阪大学や京都大学を中心に、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患患者を対象とした臨床研究の準備が進んでいます。

技術的課題:iPS細胞からの制御性T細胞作製

制御性T細胞療法の実用化に向けた最大の課題は、十分な数の制御性T細胞を安定的に作製することです。患者から採取した制御性T細胞は全体のT細胞の5〜10%程度しかなく、体外で増やすのも技術的に困難です。

この課題を解決するため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)では、ヒトiPS細胞から制御性T細胞を作製する研究が進められています。iPS細胞を使えば、理論上は無限に制御性T細胞を作り出すことができます。

2022年には、京都大学の研究チームがiPS細胞から機能的な制御性T細胞を効率的に作製する方法を開発し、国際学術誌に発表しました。この技術により、「他家移植」(他人のiPS細胞から作った制御性T細胞を患者に投与する方法)が可能になり、治療コストの大幅な削減が期待されています。

免疫学の歴史における位置づけ

坂口氏の制御性T細胞の発見は、免疫学の歴史において画期的な転換点となりました。

20世紀の免疫学は、主に「どのように異物を認識し攻撃するか」という「免疫の攻撃メカニズム」の解明に焦点が当てられてきました。しかし坂口氏は「どのように免疫を抑制するか」という逆の視点から研究を進め、制御性T細胞という新しい概念を確立しました。

1980年代に坂口氏が制御性T細胞の存在を示唆した当初、多くの免疫学者は懐疑的でした。「免疫を抑制する特殊な細胞が存在する」という考え方は、当時の免疫学の主流ではなかったからです。しかし、1990年代から2000年代にかけて、世界中の研究者が追試を行い、制御性T細胞の存在と重要性が確認されました。

2003年のFoxp3遺伝子の発見により、制御性T細胞の研究は一気に加速しました。Foxp3という「マーカー」が見つかったことで、制御性T細胞を他のT細胞と明確に区別できるようになったからです。

教育への影響:次世代の免疫学者育成

坂口氏のノーベル賞受賞は、日本の免疫学研究と教育にも大きな影響を与えています。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、坂口氏が2010年から拠点とする世界トップレベルの免疫学研究機関です。同センターには世界中から優秀な研究者が集まり、国際的な研究ネットワークの中心となっています。

京都大学でも、坂口氏の教え子たちが後継者として免疫学研究を牽引しています。坂口氏は「基礎研究の重要性」を常に強調し、短期的な成果にとらわれず、本質的な問いに取り組む姿勢を若手研究者に伝え続けてきました。

全国の大学医学部や生物学科では、制御性T細胞が免疫学の教科書の重要項目として扱われており、多くの学生がこの分野に興味を持っています。今回のノーベル賞受賞により、免疫学を志す学生がさらに増えることが期待されます。

患者団体の反応:希望の光

自己免疫疾患やがんと闘う患者団体からは、坂口氏の受賞を歓迎する声が上がっています。

日本リウマチ友の会の関係者は「長年苦しんできた病気に、新しい治療法の可能性が開かれることは大きな希望です。坂口先生の研究が一日も早く実用化されることを願っています」とコメントしています。

1型糖尿病患者の家族会からも「子供たちが毎日インスリン注射をしなければならない生活から解放される日が来るかもしれないという希望を持つことができます」という声が寄せられています。

がん患者団体も「免疫チェックポイント阻害剤に続く、新しいがん免疫療法の開発に期待しています。制御性T細胞を標的とした治療が実用化されれば、より多くのがん患者が恩恵を受けられるはずです」と期待を寄せています。

まとめ:基礎研究の重要性を示すノーベル賞

坂口志文氏のノーベル賞受賞は、基礎研究の重要性を改めて示すものです。制御性T細胞の発見から実用化まで、40年以上の歳月がかかりましたが、今ではその価値が世界中で認められています。

日本の科学研究力の維持・向上のためには、短期的な成果を求めるだけでなく、長期的な視点で基礎研究を支援することが不可欠です。坂口氏の受賞が、次世代の研究者たちへの励みとなり、日本の科学の未来を明るく照らすことを期待します。

制御性T細胞という「免疫のブレーキ」の発見は、人類の健康と医療に大きく貢献する画期的な成果です。この発見が、より多くの患者を救う治療法として結実する日が、そう遠くないことを願ってやみません。

授賞式は12月10日にストックホルムで行われます。世界中の注目が集まる中、坂口氏がどのようなスピーチを行うのか、そして今後の研究展望をどう語るのか、大いに期待されます。

投稿者 hana

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