青森県震度6強地震で浮き彫りになったSNSデマの深刻な実態

2025年12月8日23時15分頃、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5の地震が発生し、青森県八戸市で最大震度6強を観測しました。この地震は1996年の観測開始以来、青森県で初めて震度6強を記録する大規模災害となりましたが、同時にSNS上での偽情報の拡散という新たな災害が浮き彫りになりました。

人工地震説や偽AI動画が瞬時に拡散

地震発生直後からX(旧Twitter)やTikTok上では、「人工地震が到来した」「政府の陰謀を発見した。拡散してください」といった根拠のない投稿が相次ぎました。さらに深刻なのは、生成AIを使用したと思われる偽ニュース動画の流通です。これらの動画では「震源地は東京湾北部」「宮城県に過去最大規模の津波が襲来」といった完全に虚偽の情報が流されました。

TikTok上では、過去の津波映像を12月8日撮影であるかのように偽装した動画も拡散。こうした偽情報は、災害対応を混乱させ、被災者の不安を増幅させる極めて悪質な行為です。

政府が異例の「拡散しないで」呼びかけ

事態を重く見た気象庁と内閣府は、「絶対に拡散を控えてほしい」と異例の注意喚起を行いました。木原官房長官も記者会見で「誤った情報の拡散は社会・経済活動や災害対応に影響を及ぼす恐れがあり、絶対にあってはならない。厳に慎むべきだ」と強く訴えています。

また気象庁は、地震発生前にThreadsアプリで「8日に地震が起きる可能性がある」という根拠のない予測投稿が注目を集めたことについても、「政府が特定の日に大地震が発生すると予告することはない」と明言しました。

能登半島地震では救助要請の1割がデマだった衝撃

この問題は今回に限ったことではありません。2024年の能登半島地震では、さらに深刻な事態が発生していました。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の災害状況要約システムD-SUMMの分析によると、地震発生後24時間以内に投稿された救助要請1,091件のうち、なんと104件(約1割)が虚偽の情報だったことが判明しています。

これは2016年の熊本地震時の虚偽救助要請がわずか1件だったことと比較すると、驚異的な増加率です。NICT関係者は「閲覧数(インプレッション)を稼ぐ目的で、同じ内容をコピー&ペーストして新規投稿を作成したり、虚偽の内容を投稿したりするケースが増えている」と指摘しています。

なぜ災害時にデマは広がるのか

専門家によると、災害発生時は不安な状況が続く中で、人々は「役に立ちそうな情報」を見つけると「みんなに伝えるべき情報」と考え、情報の信頼度にかかわらず友人や知人へ伝えようとする心理が働きます。研究では「不安に感じたから」「伝えることが他人や社会のためになると思った」という善意がデマ拡散の主な動機であることが明らかになっています。

しかし、誤った情報は救援現場に無用な負担を強いることになり、救援活動に支障をきたしかねません。虚偽の救助要請による無駄な派遣や、地方自治体の業務過重負荷など、実際の被災者支援を妨げる深刻な結果を招いています。

デマを見抜くための6つの対策

専門家が推奨する災害時の情報リテラシー向上策として、以下の6つのポイントが挙げられます:

  1. 情報源の確認:発信元が信頼できる人物・機関かを必ず確認する
  2. クロスチェック:複数の情報源を読み比べ、ネット以外(新聞・本など)でも調べる
  3. 一呼吸置く:SNS情報をすぐに鵜呑みにせず、立ち止まって検証する
  4. 公的機関を優先:官公庁やインフラ企業の公式アカウントを真っ先に確認する
  5. テレビ・ラジオを活用:被災地外にいる人はSNS閲覧を控え、放送メディアで情報収集する
  6. 拡散の自制:未確認情報はむやみに拡散せず、一旦保留する

身近な人からの情報こそ要注意

特に注意すべきなのは、「家族・友人・知人との直接会話」が主なデマ拡散手段となっている点です。信頼する人からの情報であっても、検証なしに信じることのリスクを認識する必要があります。

東洋経済オンラインの専門家解説では、「災害時こそ冷静な情報判断が求められる。善意からの拡散であっても、未確認情報は災害対応を妨げる『第二の災害』となりうる」と警鐘を鳴らしています。

SNS時代の新たな災害対策として

今回の青森地震では、負傷者51人(青森県37人を含む)、建物被害3件などの物理的被害のほか、NTT青森八戸ビルの鉄塔損傷による避難指示、六ヶ所再処理工場の溢水、北海道・本州間連系設備の送電停止など、インフラへの影響も発生しました。

こうした混乱の中で虚偽情報が氾濫すれば、被害はさらに拡大します。気象庁は地震発生翌日の12月9日午前2時に、2022年12月の運用開始以来初めて「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表し、1週間程度は最大震度6強程度の地震に注意するよう呼びかけています。

デマ拡散は犯罪になる可能性も

能登半島地震では、悪質なデマ投稿者が実際に摘発されるケースも発生しています。日本経済新聞の報道によると、虚偽の情報を投稿した人物に対する法的措置が取られました。単なる「いいね」やリツイートであっても、拡散に加担したとして責任を問われる可能性があることを認識すべきです。

私たち一人ひとりができること

災害時のデマ対策は、個人の情報リテラシー向上が最も重要な鍵となります。総務省の情報通信白書でも、能登半島地震における偽・誤情報への対応が詳しく分析されており、「4人に1人が偽情報を拡散した」という衝撃的なデータも公表されています。

今回の青森地震を教訓に、私たちは以下のことを心がけるべきです:

  • センセーショナルな情報ほど疑ってかかる
  • 公式発表との齟齬がないか確認する
  • 安易な「いいね」「リツイート」を控える
  • 家族や友人にも情報リテラシーの重要性を伝える
  • 災害発生前から信頼できる情報源をブックマークしておく

まとめ:情報の真偽を見極める力が命を救う

青森県震度6強地震は、自然災害とSNSデマという二重の脅威を私たちに突きつけました。生成AIの進化により、偽動画の作成はますます容易になり、見分けることも困難になっています。

しかし、基本的な情報リテラシー——情報源の確認、複数ソースの照合、公的機関の優先、拡散前の検証——を実践することで、デマの連鎖を断ち切ることができます。

災害時において、正確な情報の流通は人命に直結します。一人ひとりが情報の「発信者」であると同時に「検証者」であるという意識を持ち、デマに惑わされない、そして拡散しない社会を作ることが、今求められています。

政府の「拡散しないで」という呼びかけは、私たち全員への警鐘です。次の災害が起きたとき、あなたは正しい情報を見極め、適切に行動できるでしょうか。今こそ、災害時の情報リテラシーを見直すときなのです。

AI技術の進化がもたらす新たな脅威

近年、生成AI技術の急速な発展により、誰でも簡単に本物そっくりの偽動画や偽画像を作成できるようになりました。ChatGPTやMidjourneyなどのツールが一般化する中、悪意ある者がこれらの技術を災害時のデマ作成に悪用するケースが増加しています。

今回の青森地震で拡散された偽ニュース動画は、アナウンサーの口調や映像のクオリティが本物のニュース番組と見分けがつかないレベルだったと報告されています。このような「ディープフェイク」技術の悪用は、今後ますます深刻化すると専門家は警告しています。

若年層のSNSリテラシー教育の重要性

総務省の調査によると、災害時にSNS情報を最も信頼する傾向が強いのは10代から30代の若年層です。デジタルネイティブ世代であるにもかかわらず、情報の真偽を見極める能力が十分に育っていないという矛盾した状況があります。

学校教育においても、災害時の情報リテラシーを重点的に教える必要性が指摘されています。文部科学省は2025年度から、全国の中学校・高校でSNSデマ対策を含む情報モラル教育を強化する方針を打ち出していますが、今回の青森地震はその重要性を改めて浮き彫りにしました。

海外の災害時SNS対策事例

アメリカでは、ハリケーンや山火事などの自然災害時に、FEMA(連邦緊急事態管理庁)がSNS上で公式情報を積極的に発信し、デマに対する即座のファクトチェックを行う体制が整っています。TwitterやFacebookと連携し、虚偽情報には警告ラベルを表示する仕組みも導入されています。

ヨーロッパでは、EUがデジタルサービス法(DSA)を制定し、SNSプラットフォーム事業者に対して災害時の偽情報対策を義務化しました。違反した場合には多額の罰金が科される厳格な規制が敷かれています。

日本でも、こうした国際的な取り組みを参考にしながら、法整備やプラットフォーム事業者との連携強化が求められています。

プラットフォーム事業者の責任と対応

X(旧Twitter)やTikTok、Meta(Facebook/Instagram)などのSNSプラットフォーム事業者は、災害時の偽情報対策について一定の責任を負っています。しかし、日本国内での対応は必ずしも迅速ではなく、偽情報が削除されるまでに数時間から数日かかるケースも少なくありません。

今回の青森地震を受けて、総務省はSNS事業者に対して、災害時における偽情報の迅速な削除と警告表示の徹底を改めて要請しました。プラットフォーム側も、AIを活用した自動検知システムの導入を進めていますが、完全な対策にはまだ時間がかかるのが現状です。

地方自治体の情報発信力強化

青森県や八戸市は、今回の地震発生直後から公式X(旧Twitter)アカウントで避難情報や被害状況を発信しましたが、SNS上のデマ情報の拡散速度には追いつけませんでした。自治体の公式アカウントのフォロワー数が少ないことも、正確な情報が届きにくい一因となっています。

今後は、平時から自治体の公式SNSアカウントの認知度を高め、住民がフォローする仕組みを作ることが重要です。防災訓練の際に公式アカウントをフォローするよう呼びかける、防災アプリと連携するなど、様々な工夫が求められています。

メディアの役割と責任

災害時において、テレビや新聞などの既存メディアの信頼性が改めて見直されています。SNS情報が氾濫する中、取材に基づいた正確な報道を行う従来型メディアの価値は決して色褪せていません。

NHKや民放各局は、今回の青森地震でも24時間体制で報道を続け、気象庁や自治体の公式発表を即座に伝える役割を果たしました。新聞各社も、デジタル版で速報を流すとともに、SNS上のデマに対するファクトチェック記事を次々と配信しました。

日本ファクトチェックセンター(JFC)も、地震発生直後から偽情報の検証を開始し、「人工地震説」や「偽AI動画」について詳細な検証記事を公開しています。こうした専門組織の活動も、デマ対策に不可欠な存在となっています。

企業の危機管理とSNS対策

災害時には、企業に関する偽情報も拡散されることがあります。今回の青森地震では、六ヶ所再処理工場に関する誇張された情報や、インフラ企業の復旧見込みに関する根拠のない噂などが流れました。

企業側も、公式アカウントで正確な情報を迅速に発信する体制を整える必要があります。危機管理広報の一環として、災害時のSNS対応マニュアルを整備し、社員への教育訓練を実施することが重要です。

次の大地震に備えて今できること

気象庁が発表した「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、今後1週間程度、最大震度6強程度の地震が発生する可能性を示唆しています。さらに大きな地震が発生すれば、SNS上のデマもさらに大規模になることが予想されます。

今こそ、私たち一人ひとりが災害時の情報リテラシーを身につけ、デマに惑わされない、そして拡散しない意識を持つことが求められています。具体的には以下のアクションを今すぐ始めましょう:

  • 気象庁、内閣府防災、自治体の公式アカウントをフォローする
  • 信頼できるニュースメディアのアプリをダウンロードする
  • 家族や友人と災害時の情報共有ルールを話し合う
  • 日本ファクトチェックセンターなどの検証サイトをブックマークする
  • 防災訓練の際に情報リテラシーについても学ぶ
  • スマートフォンの緊急速報設定を確認する

結論:デジタル時代の防災は情報戦

青森県震度6強地震は、自然災害への物理的な備えだけでなく、情報災害への備えも同様に重要であることを教えてくれました。SNSが社会インフラとなった現代において、偽情報との戦いは防災の重要な一部となっています。

生成AI技術の発展により、偽情報はますます巧妙になっていきます。しかし、私たち人間には「立ち止まって考える力」「複数の情報源を比較する力」「公式情報を優先する判断力」があります。これらの基本的な情報リテラシーを磨き続けることで、デマの脅威から身を守ることができます。

今回の地震で被害に遭われた方々の一刻も早い復旧を願うとともに、この経験を無駄にしないよう、社会全体で災害時の情報リテラシー向上に取り組んでいく必要があります。政府の「拡散しないで」という呼びかけに応えるのは、私たち一人ひとりの行動なのです。

投稿者 hana

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