2025年12月2日、マイナ保険証完全移行で何が起きたか

2025年12月2日、日本の医療制度において大きな転換点を迎えました。従来の健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」への完全移行が実施されたのです。しかし、この歴史的な制度変更は、全国の医療現場に大きな混乱をもたらしています。

本記事では、マイナ保険証完全移行後の実態、医療機関で頻発するトラブル事例、低迷する利用率、そして国民が直面している課題について、最新のデータと専門家の見解を基に詳しく解説します。

完全移行のタイムライン

2024年12月1日:健康保険証の新規発行停止

マイナ保険証への移行は、2024年12月1日に健康保険証の新規発行が停止されたことから本格的に始まりました。この日を境に、新たに健康保険に加入する人は、マイナンバーカードを健康保険証として利用するか、資格確認書の交付を受けるかのいずれかを選択する必要が生じました。

2025年12月1日:既存保険証の有効期限到来

そして、その1年後となる2025年12月1日をもって、既に発行済みの健康保険証も原則として有効期限を迎えることになりました。ただし、国民健康保険と後期高齢者医療制度については、期限切れの保険証でも2026年3月末まで利用可能とする暫定措置が講じられています。

2025年12月2日:完全移行の日

2025年12月2日より、マイナンバーカードが「マイナ保険証」として完全に一本化され、紙の健康保険証は原則として廃止されました。この日から、日本の医療機関では新しい受診システムが本格的に稼働することになったのです。

医療現場で起きている深刻なトラブル

全国保険医団体連合会が実施した調査によると、マイナ保険証をめぐって医療現場では深刻なトラブルが続出しています。

9割の医療機関がトラブルを経験

調査結果によると、回答した医療機関の約9割が、マイナ保険証に関連した何らかのトラブルを経験していることが明らかになりました。これは、ほとんど全ての医療機関が何らかの問題に直面していることを意味しており、制度移行の混乱の深刻さを物語っています。

「一旦10割負担」を求めたケースが1894件

特に深刻なのは、カードリーダーで資格確認ができず、患者に「一旦10割負担」を求めたケースが1894件も発生していることです。本来、保険診療では自己負担は3割(年齢や所得により1割または2割の場合もあり)で済むはずですが、システムトラブルにより、患者が全額を立て替えなければならない事態が頻発しています。

後日、保険者に請求して差額を取り戻すことは可能ですが、一時的とはいえ高額の医療費を全額負担しなければならないことは、特に経済的に余裕のない患者にとって大きな負担となっています。

頻発する具体的トラブル事例

医療機関で報告されているトラブルは多岐にわたります。

**資格情報が無効と表示される**
最も多いトラブルの一つが、「資格情報が無効」と表示されるケースです。正当な保険加入者であるにもかかわらず、システム上で資格が確認できないという問題が発生しています。

**個人情報が「●(くろまる)」で表示される**
氏名や住所の一部が「●(くろまる)」で表示され、正しい情報が確認できないというトラブルも報告されています。例えば、「●城県」のように、都道府県名の一部が黒丸で表示されるケースがありました。

**カードリーダーの認証エラー**
カードリーダーの接続不良や認証エラーも頻繁に発生しています。機器の不具合やネットワークの問題により、マイナンバーカードを読み取れないケースが相次いでいます。

**有効期限切れ**
マイナンバーカードに内蔵された電子証明書の有効期限が切れており、健康保険証として利用できないケースも多数報告されています。2025年度には2768万件のマイナンバーカードで電子証明書の更新が必要となることから、有効期限切れによるトラブルのさらなる増加が懸念されています。

**他人の情報との紐付けミス**
最も深刻なトラブルとして、他人の情報が誤って紐付けられていたケースや、間違った医療情報が紐付けられていた事例も報告されています。これは個人情報保護の観点から極めて重大な問題です。

低迷する利用率の実態

政府が推進するマイナ保険証ですが、医療現場での利用率は低迷が続いています。

全国平均の利用率は27%台

2025年3月時点で、厚生労働省が公表したマイナ保険証利用率は27.26%にとどまっています。完全移行を控えた時期であるにもかかわらず、3割にも満たない低い水準です。

また、利用率30%未満の医療機関が全体の約7割を占めており、多くの医療機関でマイナ保険証の普及が進んでいない実態が浮き彫りになっています。

医療機関別の利用率

全国保険医団体連合会の調査によると、回答医療機関の直近のマイナ保険証利用率は以下の通りです:

– 10%未満:19.0%
– 10~20%未満:24.6%
– 20~30%未満:23.4%
– 30%以上:26.4%

この結果から、半数近くの医療機関で利用率が20%未満にとどまっていることがわかります。

利用率が低迷する理由

利用率が伸び悩む理由として、以下の要因が指摘されています:

**患者の不安と抵抗感**
頻発するトラブル報道により、患者の間でマイナ保険証への不安や抵抗感が広がっています。特に高齢者の中には、新しいシステムへの移行に戸惑いを感じている方が多くいます。

**電子証明書の有効期限管理の複雑さ**
マイナンバーカードに内蔵された電子証明書には5年の有効期限があり、この期限が切れると健康保険証としても利用できなくなります。この有効期限の管理が煩雑であることも、利用率低迷の一因となっています。

**医療機関の負担増加**
医療機関の窓口では、マイナンバーカードに関する様々な質問や相談(有効期限切れへの対応、更新手続き、暗証番号忘れ・ロックの解除方法など)が殺到しており、スタッフの業務負担が大幅に増加しています。

資格確認書という代替手段

マイナンバーカードを持っていない人や、マイナ保険証を利用したくない人のために、「資格確認書」という代替手段が用意されています。

資格確認書とは

資格確認書は、マイナ保険証を利用しない人のために、各保険者から無償で交付される健康保険資格の証明書です。従来の健康保険証と同様に、医療機関で提示することで保険診療を受けることができます。

自動交付の対象者

当分の間、マイナ保険証を保有していない(マイナンバーカードの健康保険証利用登録をしていない)方全員に、従来の健康保険証の有効期限内に「資格確認書」が無償で自動的に交付されます。

具体的には以下の方が対象となります:

– マイナンバーカードを取得していない人
– マイナンバーカードを取得しているが、健康保険証利用登録を行っていない人
– マイナ保険証の利用登録解除を申請した人
– マイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れている人

後期高齢者への特例措置

75歳以上の方や、65歳以上75歳未満の方で一定の障害があると後期高齢者医療広域連合から認定を受けた方(後期高齢者医療制度の被保険者)については、2026年7月末までの間における暫定的な運用として、マイナ保険証の保有状況にかかわらず、資格確認書を無償で自動的に交付します。

交付時期と有効期限

お持ちの健康保険証の有効期限が2025年12月1日以降の従業員については、2025年の9月ごろから順次交付される予定でした。資格確認書の形式や発行方法は保険者によって異なり、有効期限は最長で5年の範囲内で保険者が定めます。

資格確認書をめぐる混乱

しかし、資格確認書をめぐっても現場では混乱が生じています。「資格情報のお知らせ」という別の書類と混同する患者が多く、窓口でのクレームにつながるケースが報告されています。

また、一般の国民の多くは資格確認書の現物を見たことがなく、マイナ保険証利用を基本とした制度だけが先行している状況です。

マイナ保険証のメリット

トラブルが多く報告されているマイナ保険証ですが、本来は以下のようなメリットがあるとされています。

医療情報の共有

過去に処方された薬の情報や特定健診の結果が医師・薬剤師と共有されるため、より適切な医療を受けられる可能性があります。特に、複数の医療機関を受診している場合や、薬の重複処方を避けたい場合に有効です。

転職・引越時の手続き不要

従来の健康保険証では、就職や転職、引っ越し時に健康保険証の更新手続きが必要でした。マイナ保険証の場合、新しい医療保険者への手続きが済んでいれば、役所の窓口で手続きをしなくても健康保険証として使用できます。

医療費の削減

従来の健康保険証では、窓口負担の費用として初診の際に30円、再診の際に20円が加算されます。一方でマイナ保険証であれば、初診と再診の際にかかる窓口負担の費用は、ともに10円です。

高額療養費制度の簡便化

マイナ保険証を利用すれば、限度額適用認定証がなくても高額療養費制度が自動的に適用され、限度額を超える自己負担が発生しません。従来は事前に限度額適用認定証の申請が必要でしたが、この手間が不要になります。

医療費控除の簡略化

マイナポータルとe-Taxを連携することで、医療費控除のデータを自動入力できるようになり、確定申告の手間が大幅に軽減されます。

専門家が指摘する問題点

マイナ保険証制度については、多くの専門家が問題点を指摘しています。

暫定措置の非公表問題

元総務省の幸田雅治教授は、厚生労働省が12月2日以降も従来の健康保険証を2026年3月末まで条件付きで使用できるとする特例措置を打ち出しているにもかかわらず、一般国民には公式には公表・周知していない点を厳しく批判しています。

「業界団体にのみ通知しているというのは、マイナ保険証に関するこれまでの失政を隠したくないという姑息な考えに基づくもの」と指摘し、国民へ広く周知すべきだと述べています。

制度の複雑化

期限切れの健康保険証や、名称が「資格確認書」と酷似し役割の違いも分かりにくい「資格情報のお知らせ」など、複数の書類が併存し、利用者だけでなく医療現場にも混乱を招いています。

個人情報保護への懸念

他人の情報が誤って紐付けられるトラブルが発生していることから、個人情報保護の観点での懸念も指摘されています。医療情報は極めてセンシティブな個人情報であり、その取り扱いには最大限の注意が必要です。

今後の課題と展望

マイナ保険証の完全移行は実施されましたが、多くの課題が残されています。

システムの安定化

最優先課題は、頻発するシステムトラブルの解消です。カードリーダーの認証エラーや資格情報の誤表示など、技術的な問題の早期解決が求められています。

国民への丁寧な説明

制度の複雑さや、暫定措置の存在など、国民に十分に理解されていない情報が多数存在します。政府は、より丁寧で分かりやすい説明と周知を行う必要があります。

医療機関への支援強化

医療機関の窓口では、マイナンバーカードに関する質問対応などで業務負担が増加しています。医療機関への支援策の強化が求められています。

電子証明書更新の大量発生への対応

2025年度には2768万件のマイナンバーカードで電子証明書の更新が必要となります。この大量更新に対応するための体制整備が急務です。

高齢者への配慮

特に高齢者の中には、デジタル機器の操作に不安を感じている方が多くいます。高齢者が安心して医療を受けられるよう、丁寧なサポート体制の構築が必要です。

まとめ

2025年12月2日に実施されたマイナ保険証への完全移行は、日本の医療制度における大きな転換点となりました。しかし、その実態は、医療現場での頻発するトラブル、低迷する利用率、国民の不安と混乱など、多くの課題を抱えています。

約9割の医療機関が何らかのトラブルを経験し、1894件もの「一旦10割負担」を求めるケースが発生している現状は、制度移行の混乱の深刻さを示しています。また、利用率が27%台にとどまっていることは、国民の間にマイナ保険証への不安や抵抗感が根強く残っていることを物語っています。

資格確認書という代替手段は用意されているものの、その存在自体が十分に周知されておらず、新たな混乱の原因となっています。さらに、従来の保険証が2026年3月末まで使用できる暫定措置が一般国民に公表されていないという問題も指摘されています。

マイナ保険証には、医療情報の共有や手続きの簡素化など、本来のメリットも存在します。しかし、これらのメリットを十分に享受するためには、システムの安定化、国民への丁寧な説明、医療機関への支援強化など、解決すべき課題が山積しています。

今後、政府は医療現場の声に真摯に耳を傾け、国民が安心して医療を受けられる環境を整備していく必要があります。完全移行は実施されましたが、真の意味での制度の定着には、まだ多くの時間と努力が必要と言えるでしょう。

医療は国民の生命と健康に直結する重要な社会インフラです。マイナ保険証制度が、全ての国民にとって使いやすく、安心できるものとなるよう、継続的な改善が求められています。

投稿者 hana

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