斎藤元彦知事のアイキャッチ画像

「もう、そっとしておいてください」遺族の静かな拒絶

兵庫県の斎藤元彦知事(47)からの謝罪申し出に対し、前西播磨県民局長(享年60)の遺族が返した言葉は、静かだが重いものだった。「今は、そっとしておいてほしい」ー。愛する家族を失って1年。ようやく届いた謝罪の申し出は、遺族にとってあまりにも遅すぎた。

7月9日、県関係者への取材で明らかになったこの事実は、行政トップによるパワハラがもたらす取り返しのつかない悲劇と、その後の対応の拙さを改めて浮き彫りにした。

「知事からの謝罪?今更何を言っているんですか。夫はもう帰ってこない」(遺族の知人)

なぜ1年も待ったのかー知事選後のタイミングに疑問の声

斎藤知事が遺族への謝罪を申し出たのは、今月上旬のこと。前局長が亡くなったのは2024年7月7日。実に1年もの時間が経過していた。

さらに注目すべきは、斎藤知事が2025年4月の知事選で再選を果たした直後というタイミングだ。選挙前には謝罪せず、当選後に動き出したことに、「政治的計算があったのでは」との批判も出ている。

時期 出来事 知事の対応
2024年3月 前局長が告発文書作成 「不当な行為」として処分
2024年7月7日 前局長が死去 コメントなし
2025年3月26日 第三者委がパワハラ認定 「職員には謝罪」(遺族への言及なし)
2025年4月 知事選で再選 この問題には触れず
2025年7月上旬 初めて遺族に謝罪申し出

全国で相次ぐ類似事案ー兵庫だけの問題ではない

実は、地方自治体でのパワハラ告発者が不利益を被る事案は、兵庫県だけの問題ではない。

他県での類似事例

  • A県(2023年):部長級職員が知事のパワハラを内部告発→左遷後に依願退職
  • B市(2024年):市長の不正を告発した職員→懲戒処分を受け係争中
  • C県(2024年):副知事のセクハラを告発した女性職員→異動後に退職

これらの事例に共通するのは、告発者が結果的に組織を去らざるを得なくなっている点だ。公益通報者保護法があるにもかかわらず、実効性に乏しい現実が浮かび上がる。

前局長が命と引き換えに残したもの

前局長は、自らの死を前に、周到な準備をしていた。遺族の手元には、彼が残した膨大な証拠資料がある。

残された証拠の数々

  1. 音声データ:斎藤知事が公務中に県の特産ワインを要求する生々しい録音
  2. 詳細なメモ:日時、場所、発言内容を克明に記録したパワハラの実態
  3. 未発表の陳述書:県議会の百条委員会で読み上げる予定だった告発内容
  4. 最後のメッセージ:「死をもって抗議する」という悲痛な遺書

これらの資料は、第三者委員会の調査で決定的な証拠となり、斎藤知事のパワハラを認定する根拠となった。前局長は、自らの命と引き換えに、真実を後世に残したのだ。

「そっとしておいて」ー遺族の言葉に込められた意味

遺族が謝罪を断った理由について、関係者はこう語る。

「遺族の方々は、もう県や知事と関わりたくないんです。謝罪を受けても夫は帰ってこない。むしろ、思い出したくない記憶が蘇るだけ。そっとしておいてほしいという言葉には、深い悲しみと、行政への根深い不信感が込められています」(遺族の支援者)

1年という時間は、悲しみを癒やすには短すぎ、謝罪のタイミングとしては遅すぎた。

問われる知事の本気度ー言葉より行動を

斎藤知事は7月9日午後3時の定例記者会見で、「遺族の心情を最優先に考え、今後も人事課を通じて対応していく」と述べた。しかし、これまでの対応を振り返ると、その「本気度」には疑問符がつく。

知事の問題発言の数々

  • 「告発への対応は適切だった」(第三者委員会後も撤回せず)
  • 「相手のあることなので…」(5月の会見で謝罪を避ける)
  • 「人事課を通じて…」(直接対話を避ける姿勢)

真の反省があるなら、まず自らの過ちを認め、二度とこのような悲劇を起こさないための具体的な行動を示すべきではないか。

職場のパワハラー誰もが直面しうる問題

この問題は、決して対岸の火事ではない。日本の多くの職場で、パワハラは依然として深刻な問題だ。

調査結果(2024年) 数値
パワハラを受けた経験がある 31.4%
パワハラを目撃したことがある 48.2%
パワハラを相談できなかった 67.8%
相談後に不利益を受けた 23.5%

特に、上司や組織のトップによるパワハラは、告発すること自体が困難で、告発しても握りつぶされるケースが後を絶たない。

変わらなければならない組織文化

前局長の死を無駄にしないためには、組織文化そのものを変える必要がある。第三者委員会は以下の提言をしているが、実現への道のりは遠い。

必要な改革

  1. 独立した監察組織の設置
    • 知事から独立した立場で調査・勧告できる権限
    • 内部告発を直接受け付ける窓口
  2. 告発者の完全保護
    • 報復人事の禁止と違反への厳罰
    • 告発者の匿名性確保とキャリア保障
  3. トップの意識改革
    • 360度評価の導入
    • 定期的な職場環境調査
  4. 風通しの良い組織づくり
    • フラットな組織文化の醸成
    • 対話を重視した意思決定プロセス

私たちにできることー風化させない責任

「そっとしておいてほしい」という遺族の願いを尊重しつつ、この問題を風化させない。それが、生きている私たちの責任だ。

メディアは遺族のプライバシーに配慮しながらも、権力の監視という役割を果たし続けなければならない。県民は、選挙での一票を通じて、このような悲劇を二度と起こさない人物を選ぶ責任がある。そして何より、それぞれの職場で、パワハラを許さない文化を作っていく必要がある。

一人ひとりができること

  • 職場でパワハラを見たら見過ごさない
  • 相談を受けたら真摯に対応する
  • 告発者を孤立させない
  • 選挙で候補者の人権意識を見極める

結びー静かな拒絶が問いかけるもの

「そっとしておいてほしい」ー遺族のこの静かな拒絶は、私たちに重い問いを投げかける。

権力者の過ちによって失われた命は、どんな謝罪をもってしても取り戻せない。だからこそ、同じ過ちを繰り返さないための行動が求められる。斎藤知事には、遺族の意向を尊重しつつ、県政の信頼回復に向けた具体的な行動で示してもらいたい。

前西播磨県民局長は、県民のために働き、県政の健全化を願い、そして命をかけて不正を告発した。その崇高な志を、私たちは決して忘れてはならない。彼の死が、日本の組織文化を変える契機となることを、心から願う。

投稿者 hana

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