介護現場悲鳴!参院選の外国人規制は現実的か
「もしフィリピン人スタッフがいなかったら、今頃この施設は閉鎖していたでしょうね」
東京都内の特別養護老人ホームで施設長を務める佐藤美智子さん(52)は、夜勤表を見ながらため息をついた。今夜の夜勤3人のうち2人が外国人スタッフだ。「政治家の方々は『外国人規制』と簡単に言いますが、じゃあ誰が深夜のオムツ交換をしてくれるんですか?」
2025年7月20日投開票の参議院選挙が後半戦に突入し、各党が競うように「外国人規制」を訴え始めている。しかし、実際の介護現場では、まったく違う現実が広がっていた。
深夜2時、介護現場の真実
7月のある深夜、記者は都内の介護施設を訪れた。深夜2時、施設内は静まり返っているが、スタッフは休む間もない。
「おばあちゃん、体の向き変えますよ」。優しく声をかけるのは、インドネシア出身のリナさん(28)。日本で介護福祉士の資格を取得し、5年目になる。2時間おきの体位変換、オムツ交換、水分補給の確認。80人の入所者に対し、夜勤スタッフはわずか3人だ。
「日本人スタッフの募集をかけても、応募はほとんどありません」と佐藤施設長。月給は手取りで22万円程度。深夜勤務もある激務で、この給与では人が集まらないのが現実だ。
数字が物語る「依存」の実態
厚生労働省の最新データ(2024年10月末)によると、日本で働く外国人労働者は約230万人に達し、過去最高を更新した。特に「医療・福祉」分野での増加率は28.1%と、全産業で最も高い伸びを示している。
介護分野の外国人労働者推移
年度 | 外国人介護職員数 | 全介護職員に占める割合 | 主な出身国 |
---|---|---|---|
2020年 | 約4万人 | 2.5% | フィリピン、インドネシア |
2023年 | 約9万人 | 5.8% | ベトナム、ミャンマー追加 |
2024年 | 約11.6万人 | 7.2% | ネパール、スリランカも増加 |
この数字の裏には、日本人介護士の深刻な人手不足がある。2025年には約32万人、2040年には約69万人の介護職員が不足すると推計されている。
参院選で激化する「規制競争」の矛盾
こうした現実がある一方で、参議院選挙では各党が外国人規制を競い合う異様な光景が広がっている。
主要政党の外国人政策スタンス
自由民主党
- 「違法外国人ゼロ」を新スローガンに
- 外国人の不動産取得制限を検討
- 社会保険料の徴収強化
- ただし「特定技能」制度は維持・拡大
立憲民主党
- 不法滞在者の取り締まり強化を主張
- 一方で「多文化共生」の理念は堅持
- 技能実習制度の抜本改革を提案
- 最低賃金の地域格差解消も同時提案
日本維新の会
- 「納税者番号制」の外国人適用を推進
- 社会保障の「ただ乗り」防止を強調
- 高度人材は積極受け入れの二面性
- 「選別的受け入れ」を公然と主張
しかし、これらの公約には大きな矛盾がある。規制強化を訴えながら、実際には外国人労働者なしには成り立たない産業への配慮から、抜け道だらけの政策になっているのだ。
地方からの悲鳴「きれいごとでは済まない」
茨城県でレタス農園を営む田中正一さん(65)は、選挙カーから流れる「外国人規制」の訴えに複雑な表情を見せる。
「うちは技能実習生15人がいなければ、収穫時期に野菜を全部腐らせることになる。日本人?ハローワークに求人出しても、もう3年間応募ゼロですよ」
早朝4時からの収穫作業、炎天下での選果作業。時給1,200円でも人は来ない。「外国人規制を叫ぶ政治家は、一度でも真夏の畑仕事を体験してみろ」と田中さんは憤る。
産業別外国人労働者依存度(2024年データ)
産業 | 外国人労働者数 | 依存度 | 今後の見通し |
---|---|---|---|
製造業 | 59.8万人 | 26.0% | 自動化で横ばい |
建設業 | 17.8万人 | 22.7%増 | 2030年まで増加 |
医療・福祉 | 11.6万人 | 28.1%増 | 急増継続 |
農業 | 7.2万人 | 15.2% | さらに依存深まる |
宿泊・飲食 | 23.4万人 | 10.2% | 都市部で増加 |
SNSで広がる現場の声
選挙戦での外国人規制論に対し、SNSでは現場で働く人々から反発の声が相次いでいる。
特に話題となったのが、北海道の酪農家によるツイートだ。「外国人実習生がいなければ、北海道の牛乳は消費者に届かない。それでも規制しますか?」という投稿は、48時間で10万回以上シェアされた。
「#介護現場の真実」というハッシュタグも登場し、全国の介護職員が実情を訴えている。「フィリピン人の同僚は、日本人より丁寧に高齢者に接してくれる」「言葉の壁より、人手不足の壁の方が深刻」といった声が続々と投稿されている。
有識者が指摘する「ポピュリズムの危険」
移民政策に詳しい明治大学の鈴木教授は、現在の選挙戦を「危険なポピュリズム」と断じる。
「データを見れば、外国人労働者なしに日本社会が成り立たないのは明白。にもかかわらず、選挙のたびに外国人がスケープゴートにされる。これは1930年代のヨーロッパと同じ構図だ」
実際、フランスやドイツでも移民規制を掲げる政党が台頭し、社会の分断を招いた。日本も同じ過ちを繰り返そうとしているのか。
選挙戦残り6日、問われる有権者の選択
最新の世論調査では、「外国人政策」を重視する有権者は23%に上り、「物価対策」(31%)に次ぐ第2位となった。特に地方部では、この傾向が顕著だ。
しかし、皮肉なことに、外国人労働者への依存度が高い地方ほど、規制強化を支持する傾向がある。この矛盾をどう理解すべきか。
前出の佐藤施設長は言う。「確かに文化の違いによる摩擦はあります。でも、それ以上に彼らの献身的な働きに救われている。選挙が終わったら、また『人手不足対策』と言い出すんでしょう?」
選挙後に待つ現実
仮に外国人規制が強化されたら、何が起きるのか。専門家の試算は衝撃的だ。
- 介護施設の3割が人員基準を満たせず閉鎖の危機
- 農作物の収穫量が2割減少し、食料価格が高騰
- 建設工事の遅延により、インフラ整備に支障
- 24時間営業のコンビニ・飲食店の大幅減少
これが、外国人労働者を失った日本の姿だ。
真の争点は何か
7月20日の投票日まで、あと6日。有権者は何を基準に投票すべきか。
必要なのは、感情論ではなく現実を直視することだ。外国人労働者への依存を減らすなら、日本人の待遇改善が不可欠。それには社会保障費の見直しや、税制改革など、痛みを伴う改革が必要となる。
「外国人規制」という耳あたりの良いスローガンの裏で、誰が本当の解決策を提示しているのか。それを見極めることが、今回の選挙の真の争点ではないだろうか。
深夜の介護施設で、リナさんは今日も黙々と働いている。彼女たちの存在なしに、日本の超高齢社会は成り立たない。この現実から目を背けた選択は、必ず大きなツケとなって返ってくる。
建前ではない、本音の議論を。7月20日、あなたの一票が日本の未来を決める。