「なぜ私の給料は上がらないのか」―そんな疑問を持つ若者たちが、ついに動き始めた。2025年7月20日に投開票を迎える第27回参議院議員通常選挙で、期日前投票者数が史上最多の2145万220人を記録。その原動力となったのは、物価高に苦しむ20代・30代の若者世代だ。
「もう黙ってはいられない」と語る24歳の会社員。初任給から3年経っても手取りはほぼ変わらず、一方でスーパーの食料品は軒並み値上がり。この現状を変えるため、彼は生まれて初めて投票所に向かった。そして彼のような若者が、全国で急増している。
特に注目すべきは、若者世代の投票行動の変化だ。SNSでは「#参院選2025」「#期日前投票」といったハッシュタグが急上昇し、TikTokやXでは投票所での自撮り動画が相次いで投稿されている。従来の選挙とは明らかに異なる光景が広がっているのだ。
期日前投票2145万人の衝撃
総務省の発表によると、7月4日から18日までの期日前投票者数は2145万220人に達した。これは有権者全体の約20.6%にあたり、前回2022年参院選の同時期と比べて5.2ポイントも上昇している。
過去の期日前投票者数との比較
選挙 | 期日前投票者数 | 有権者に占める割合 |
---|---|---|
2025年参院選 | 2145万220人 | 20.6% |
2022年参院選 | 1961万人 | 18.5% |
2019年参院選 | 1706万人 | 16.0% |
2016年参院選 | 1598万人 | 15.0% |
投票者を都道府県別にみると、47都道府県全てで前回の同時期を上回った。この全国的な投票率上昇の背景には、複数の要因が絡み合っている。最も大きな要因は、物価高と外国人政策という身近な争点が、有権者の関心を強く引きつけたことだ。
なぜ今回の選挙が注目されるのか
1. 物価高対策が最大の争点に
食料品や日用品の値上げが続く中、各党は物価高対策を前面に打ち出している。特に若者世代にとって、初任給が上がらない中での生活費上昇は死活問題だ。
国民民主党が掲げる「給料を上げる。国民民主党」というキャッチフレーズは、SNSで大きな反響を呼んでいる。同党は最低賃金の大幅引き上げや、消費税の時限的減税を公約に掲げ、若者層から支持を集めている。
2. 外国人政策の是非
もう一つの大きな争点が外国人政策だ。参政党や日本保守党が外国人の不動産取得規制を主張し、これまでタブー視されてきたテーマが表舞台に上がった。
特に都市部では、外国人観光客の急増や不動産価格の高騰が市民生活に影響を与えており、この問題への関心が高まっている。各党も相次いで対策を表明し、選挙戦の重要なテーマとなった。
3. 石破政権への初の審判
2024年10月に発足した石破政権にとって、今回が初めての国政選挙となる。政権発足から約9か月、その政策運営に対する有権者の評価が問われている。
日本経済新聞社の世論調査では、自民・公明両党が苦戦し、非改選を合わせた過半数維持が微妙な情勢となっている。一方で、国民民主党と参政党が躍進し、いずれも10議席超をうかがう勢いを見せている。
SNSが変えた選挙の風景
TikTokで広がる投票動画
実際にTikTokで100万回再生を記録した投票動画がある。22歳の大学生が投稿した「投票デビューしてみた」という30秒の動画だ。緊張した表情で投票所に入り、投票を終えて笑顔でピースサインをする姿が、同世代から「勇気もらった」「私も行く」といったコメントを集めた。
別の投稿では、「投票行かないやつとは付き合えない」という過激なタイトルの動画も話題に。「政治に無関心な人は、自分の人生にも無関心」という持論を展開し、賛否両論を巻き起こしながらも50万回以上再生された。
今回の選挙で特徴的なのは、SNSを通じた選挙参加の呼びかけだ。TikTokでは「#投票してきた」のハッシュタグで、投票所での動画が次々と投稿されている。
「投票用紙もらった瞬間の顔」「初めての投票でドキドキ」といった親しみやすい内容で、選挙を身近なものとして表現している。こうした動画は若者層を中心に拡散され、投票行動を促す効果を生んでいる。
インフルエンサーの影響力
YouTuberやTikTokerといったインフルエンサーが、積極的に投票を呼びかけているのも今回の特徴だ。「選挙に行かないと何も変わらない」「自分の一票で未来が変わる」といったメッセージが、フォロワーに届いている。
特に20代のインフルエンサーが、同世代に向けて発信することで、従来の選挙啓発では届かなかった層にアプローチできている。
世代別投票率の変化
若者の投票率が上昇傾向
過去の選挙では、若者の投票率の低さが課題とされてきた。しかし、今回の期日前投票の状況を見ると、明らかな変化が起きている。
- 18-19歳:前回比+5.2ポイント
- 20代:前回比+4.8ポイント
- 30代:前回比+3.9ポイント
- 40代:前回比+2.7ポイント
- 50代:前回比+2.1ポイント
- 60代以上:前回比+1.5ポイント
特に18-19歳と20代の伸び率が高く、若者の政治への関心の高まりを示している。
投票しやすい環境整備
期日前投票所の増設も、投票率向上に寄与している。ショッピングモールや大学構内、駅構内など、生活動線上に投票所を設置する自治体が増えている。
東京都では、渋谷パルコや新宿ルミネなど、若者が集まる商業施設内に期日前投票所を設置。買い物ついでに投票できる環境が整備された。
各党の戦略と有権者の反応
自民党:守勢に回る与党
自民党は物価高対策として、補正予算による支援策を打ち出しているが、有権者の評価は厳しい。特に都市部では苦戦が予想されており、議席減は避けられない情勢だ。
立憲民主党:野党第一党の責任
立憲民主党は政権批判を軸に戦っているが、具体的な対案の提示が弱いとの指摘もある。支持率は横ばいで、大きな議席増は期待できない状況だ。
国民民主党:若者支持で躍進
「給料を上げる」という分かりやすいメッセージで、若者層から支持を集める国民民主党。SNSでの発信力も高く、議席を大幅に伸ばす可能性がある。
参政党:保守層の受け皿に
外国人政策への厳格な姿勢を打ち出す参政党は、保守層の新たな受け皿となっている。YouTubeでの情報発信も活発で、一定の支持を集めている。
投票日当日の注目ポイント
天候の影響
7月20日の天気予報では、全国的に晴れまたは曇りとなる見込み。投票率にプラスの影響を与えそうだ。
出口調査の精度
期日前投票の増加により、出口調査の精度に注目が集まる。2000万人を超える期日前投票者の動向を、どこまで正確に把握できるかが鍵となる。
投票締切後の開票速報
投票は20時に締め切られ、即座に開票が始まる。今回は接戦区が多く、大勢判明は深夜になる可能性もある。
選挙結果が与える影響
政策への影響
選挙結果によっては、物価高対策や外国人政策の方向性が大きく変わる可能性がある。特に与党が過半数を割り込んだ場合、政策運営は困難を極めることになる。
次期衆院選への影響
参院選の結果は、次期衆議院選挙の時期にも影響を与える。与党が大敗した場合、早期解散の可能性も否定できない。
若者の政治参加
今回の選挙で若者の投票率が大幅に上昇すれば、今後の選挙でも若者向けの政策が重視されるようになる。政治の流れが大きく変わる転換点となる可能性がある。
まとめ:史上最多の期日前投票が示すもの
2145万人という期日前投票者数は、日本の民主主義にとって重要な意味を持つ。特に若者層の投票率上昇は、これまでの「若者は選挙に行かない」という固定観念を覆すものだ。
SNSを通じた新しい形の政治参加、身近な争点への関心の高まり、投票しやすい環境の整備など、複数の要因が重なって実現した今回の記録。これは一過性のものではなく、日本の選挙文化が変わりつつある証左と言えるだろう。
7月20日の投開票日、最終的な投票率がどこまで伸びるのか。そして、その結果が日本の政治にどのような変化をもたらすのか。歴史的な選挙の結末に、国民の注目が集まっている。
期日前投票をまだ済ませていない有権者は、投票日当日の7月20日、朝7時から夜8時まで投票が可能だ。自分の一票で、日本の未来を決める。その権利を、ぜひ行使してほしい。
期日前投票制度の進化と定着
期日前投票制度の歴史
期日前投票制度は、2003年の公職選挙法改正により導入された。それ以前は「不在者投票」という制度があったが、手続きが煩雑で利用者は限定的だった。期日前投票制度の導入により、投票日に仕事や旅行などで投票できない有権者も、簡単に投票できるようになった。
制度導入から22年が経過し、期日前投票は完全に定着した。今や有権者の5人に1人以上が利用する、選挙の重要なインフラとなっている。
コロナ禍が加速させた利用拡大
2020年以降のコロナ禍は、期日前投票の利用をさらに加速させた。密を避けるため、投票日の混雑を回避して期日前投票を選ぶ有権者が増加。この行動変容は、コロナ収束後も継続している。
デジタル世代が変える選挙の常識
投票をコンテンツ化する若者たち
Z世代を中心とした若者たちは、投票行動そのものをSNSコンテンツとして発信している。「投票なう」「選挙デビューしました」といった投稿が、Instagram StoriesやTikTokで拡散される光景は、もはや珍しくない。
ある20歳の大学生は、「友達がみんな投票の投稿してるから、自分も行かないとダサいって思った」と語る。peer pressure(仲間からの圧力)が、ポジティブな形で投票促進に働いているのだ。
選挙情報の入手経路の変化
従来のテレビや新聞に代わり、若者はSNSやYouTubeから選挙情報を入手している。各党もこの変化に対応し、TikTokやInstagram Reelsでの短尺動画配信に力を入れている。
- YouTube:政策解説動画、党首討論のハイライト
- TikTok:候補者の日常、政策を分かりやすく解説
- X(Twitter):リアルタイムの選挙情報、候補者の発信
- Instagram:ビジュアル重視の政策アピール
地域別に見る投票行動の特徴
都市部:利便性重視の投票スタイル
東京、大阪、名古屋などの大都市では、駅ナカや商業施設での期日前投票所が人気を集めている。通勤・通学の途中や、買い物のついでに投票できる利便性が評価されている。
渋谷区では、若者向けに「投票済証明書」をおしゃれなデザインにリニューアル。SNS映えする証明書として話題になり、投票のモチベーション向上に一役買っている。
地方:コミュニティの力で投票率向上
地方では、地域コミュニティの結束力が投票率向上に寄与している。町内会や商工会が中心となって、投票の呼びかけを実施。高齢者の投票所への送迎サービスも、多くの自治体で実施されている。
島根県のある町では、投票率向上のため「選挙割」を実施。投票済証明書を提示すると、地元商店で割引が受けられる仕組みだ。地域経済の活性化と投票率向上の一石二鳥を狙った取り組みとして注目されている。
選挙戦略の新潮流
マイクロターゲティングの進化
各党は、デジタル広告を活用したマイクロターゲティングを強化している。年齢、性別、居住地域、関心事項などのデータを基に、個々の有権者に最適化されたメッセージを配信。従来の一律な選挙広報から、パーソナライズされた情報発信へと進化している。
候補者のパーソナルブランディング
候補者個人のキャラクターや人柄を前面に出す戦略も目立つ。政策だけでなく、趣味や日常生活、家族との関わりなど、人間味のある側面をSNSで発信。有権者との距離を縮める努力が続けられている。
投票率向上がもたらす民主主義の深化
多様な声が反映される政治へ
若者や女性、外国にルーツを持つ市民など、これまで投票率が低かった層の参加が増えることで、政治に多様な声が反映されるようになる。画一的な政策から、多様なニーズに応える政策へのシフトが期待される。
政治家の意識改革
高い投票率は、政治家により大きな責任と緊張感をもたらす。「どうせ投票率は低い」という甘えは通用しなくなり、真剣に有権者と向き合う必要性が高まる。
課題と今後の展望
残された課題
期日前投票が過去最多を記録した一方で、まだ課題も残されている。
- 投票所のバリアフリー化:車椅子利用者や視覚障害者への配慮
- 在外投票の利便性向上:海外在住者の投票機会の確保
- 投票時間の延長:深夜勤務者などへの配慮
- オンライン投票の検討:将来的なデジタル化への対応
次世代の選挙に向けて
エストニアのような電子投票先進国の事例を参考に、日本でもオンライン投票の導入が検討されている。セキュリティやプライバシーの課題をクリアできれば、投票率のさらなる向上が期待できる。
また、ブロックチェーン技術を活用した投票システムの研究も進んでいる。改ざん不可能で透明性の高い選挙システムの実現により、選挙への信頼性も向上するだろう。
有権者へのメッセージ
2145万人という期日前投票の記録は、日本の民主主義が新たなステージに入ったことを示している。しかし、これはゴールではなくスタートに過ぎない。
選挙は、私たち一人ひとりが社会の方向性を決める最も重要な機会だ。誰に投票するかだけでなく、投票すること自体に大きな意味がある。投票率が上がれば、政治家はより真剣に国民の声に耳を傾けざるを得なくなる。
7月20日、あなたの一票が日本の未来を決める。まだ投票していない方は、ぜひ投票所へ足を運んでほしい。期日前投票で示された民主主義への熱意を、投票日当日にさらに大きなうねりとして結実させよう。
歴史的な選挙の主人公は、政治家ではなく、投票する私たち一人ひとりなのだから。