高齢者連れ去り冤罪のアイキャッチ画像

70代母親が区役所に突然”連れ去り”される衝撃の真相|高齢者虐待冤罪の実態と家族の苦悩

2025年7月21日、高齢者虐待防止の名のもとに行われる行政による介入が、時として家族を引き裂く悲劇を生んでいることが明らかになった。愛情を持って介護をしていた家族が「虐待者」のレッテルを貼られ、高齢の親が突然行政に「連れ去られる」ケースが全国で相次いでいる。今回は、大阪で実際に起きた70代母親の連れ去り事案を中心に、高齢者虐待冤罪の実態と、その背景にある構造的な問題について深く掘り下げる。

突然訪れた「その日」|平穏な日常が一変した瞬間

大阪府在住の舞さん(40代・仮名)にとって、2024年7月のあの日は忘れられない悪夢の始まりだった。認知症を患う70代の母・静江さん(仮名)と二人で暮らしていた舞さんは、母の介護に献身的に取り組んでいた。毎日の服薬管理、食事の世話、通院の付き添い――すべては母への愛情から自然に行っていたことだった。

しかし、その日の朝、区役所の職員数名が突然自宅を訪れた。「お母様を保護します」という一方的な通告。舞さんには何が起きているのか理解できなかった。母親は強制的に施設へ連れて行かれ、舞さんは「虐待者」として扱われることになった。

「母は『助けて』と叫んでいました。私も必死に止めようとしましたが、職員たちは『これは法的措置です』の一点張りでした」と舞さんは当時を振り返る。

なぜ虐待と判断されたのか|曖昧な根拠と不十分な調査

後に明らかになった「虐待」の根拠は、静江さんの腕にあった数カ所の青あざだった。しかし、これらのあざは静江さんが服用していた血液をサラサラにする薬の副作用によるものである可能性が高かった。高齢者、特に血液に影響を与える薬を服用している場合、軽い接触でも内出血を起こしやすいことは医学的にも知られている。

さらに問題なのは、行政側が十分な調査を行わずに判断を下したことだ。舞さんの話によれば、事前の聞き取り調査はわずか一度、それも15分程度の形式的なものだったという。医師の意見書も求められず、薬の副作用についての検討もなされなかった。

調査項目 本来あるべき対応 実際の対応
医学的所見の確認 複数の医師による診断 なし
服薬状況の確認 薬剤師を含む専門家の意見聴取 なし
生活状況の調査 複数回の訪問と長期的観察 1回15分の聞き取りのみ
近隣住民への聞き取り 複数の証言を収集 なし

強制的な生活保護受給|必要のない福祉の押し付け

静江さんが施設に収容された後、さらなる問題が発生した。行政は静江さんに生活保護を受給させ、市長申し立てによる成年後見制度の利用を進めようとしたのだ。しかし、舞さん家族には十分な経済力があり、生活保護を受ける必要は全くなかった。

「母の年金と私の収入で、十分に生活できていました。なぜ生活保護を受けさせられなければならないのか、理解できませんでした」と舞さんは憤る。

この背景には、施設入所費用を確保するための行政側の都合があったと見られる。生活保護受給者であれば、施設費用は公費でまかなわれるため、行政としては管理しやすくなる。しかし、これは本人や家族の意思を無視した、極めて問題のある対応だ。

数字で見る高齢者虐待の実態|増加する相談件数の裏側

厚生労働省の最新データによると、2023年度の高齢者虐待に関する相談・通報件数は過去最高を記録した。しかし、この数字の裏には、舞さんのような冤罪ケースも含まれている可能性がある。

2023年度 高齢者虐待統計データ

  • 養護者による虐待相談・通報件数:40,386件(11年連続増加)
  • 虐待と判断された件数:17,100件(相談件数の約42.3%)
  • 虐待による死亡者数:27人
  • 養介護施設従事者による虐待:1,123件(初の1,000件超え、前年比31.2%増)

注目すべきは、相談・通報件数のうち、実際に虐待と判断されたのは約4割に過ぎないという点だ。つまり、6割近くは虐待ではなかったということになる。この中には、誤解や思い込み、そして舞さんのような冤罪ケースが含まれている。

なぜ冤罪が生まれるのか|構造的な問題点

1. 過度なリスク回避姿勢

行政担当者は、万が一虐待を見逃した場合の責任を恐れるあまり、疑いがあれば即座に介入する傾向がある。「疑わしきは保護」という考え方が、時として行き過ぎた対応を生んでいる。

2. 専門知識の不足

高齢者の身体的特徴や、薬の副作用、認知症の症状などについて、十分な知識を持たない職員が判断を下すケースが少なくない。医療専門家との連携不足も大きな問題だ。

3. 調査手法の問題

短時間の聞き取りや表面的な観察だけで判断を下す現在の調査手法には限界がある。長期的な観察や、複数の専門家による多角的な評価が必要だ。

4. 家族の声を聞かない体質

一度「虐待の疑い」というレッテルが貼られると、家族の説明や反論はほとんど聞き入れられない。「虐待者は嘘をつく」という前提で対応されるため、冤罪を晴らすことが極めて困難になる。

裁判所が下した意外な判断|冤罪を示唆する結果

舞さんの事案で注目すべきは、その後の裁判所の判断だ。市長申し立てによる成年後見人選任の審判において、裁判所は当初「虐待者」とされた舞さんを、静江さんの成年後見人に選任したのだ。

これは極めて異例な判断だ。通常、虐待の疑いがある親族は成年後見人には選ばれない。裁判所がこのような判断を下したということは、虐待の事実がなかったと認定したに等しい。

「裁判所の判断で、ようやく私の無実が証明されました。でも、失った時間と母との関係は元には戻りません」と舞さんは涙を浮かべる。

全国で相次ぐ類似事案|氷山の一角か

舞さんのケースは決して特殊な例ではない。全国各地で同様の事案が報告されている。

東京都のケース

80代の母親を介護していた息子が、母親の転倒による打撲を虐待と誤認され、母親を施設に強制入所させられた。後に医師の診断書で転倒によるものと証明されたが、母親は既に施設での生活に慣れてしまい、自宅に戻ることを拒否するようになってしまった。

神奈川県のケース

認知症の父親を介護していた娘が、父親の徘徊を防ぐために玄関に鍵をかけていたことを「監禁」と判断され、父親を保護された。しかし、これは父親の安全を守るための措置であり、日中は自由に外出させていたことが後に判明した。

愛知県のケース

要介護の母親の入浴を手伝っていた息子が、入浴時のやり取りを近隣住民に「暴力」と誤解され通報された。実際は、認知症の母親が入浴を嫌がるため、優しく説得していただけだった。

介護家族が直面する二重の苦しみ

高齢者介護に携わる家族は、ただでさえ肉体的・精神的・経済的な負担を抱えている。そこに「虐待の疑い」というレッテルが加わることで、彼らの苦しみは倍増する。

社会的な偏見との戦い

一度「虐待疑い」として通報されると、近隣住民からの視線が変わる。「あの家は虐待していたらしい」という噂が広まり、地域社会から孤立してしまうケースも少なくない。

精神的なトラウマ

愛情を持って介護していたにも関わらず「虐待者」扱いされることは、深い心の傷となる。多くの介護者がうつ状態に陥り、中には介護そのものを放棄してしまう人もいる。

経済的な負担

冤罪を晴らすための弁護士費用、施設に入所させられた家族の面会のための交通費など、予期せぬ出費が家計を圧迫する。

専門家が指摘する改善点|より良い高齢者保護のために

このような冤罪を防ぎ、真に保護が必要な高齢者を守るために、専門家からは以下のような改善提案がなされている。

1. 多職種連携チームによる判断

医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士など、複数の専門職が連携して判断を下す体制の構築が必要だ。特に医学的な所見については、必ず医師の意見を求めるべきである。

2. 段階的な介入プロセスの確立

いきなり「連れ去り」という極端な措置を取るのではなく、まずは見守り、助言、支援という段階的なアプローチを取るべきだ。家族への支援を通じて、多くの問題は解決可能である。

3. 透明性の確保

虐待認定のプロセスや基準を明確化し、家族に対して十分な説明を行う必要がある。また、異議申し立ての機会も保障されるべきだ。

4. アフターフォローの充実

保護措置を取った後も、定期的な見直しを行い、家族との関係修復に向けた支援を行うべきである。

介護する家族を守るために|知っておくべき対策

高齢者を介護する家族が、冤罪に巻き込まれないために取るべき対策を紹介する。

1. 記録を残す

  • 日々の介護記録をつける(食事内容、服薬状況、体調変化など)
  • けがや打撲があった場合は、写真を撮り、原因を記録する
  • 医療機関の受診記録を保管する

2. 第三者の目を入れる

  • デイサービスやショートステイを定期的に利用する
  • 訪問介護や訪問看護を導入する
  • 民生委員や地域包括支援センターと良好な関係を築く

3. 相談窓口を活用する

  • 介護の悩みは一人で抱え込まず、早めに相談する
  • 地域包括支援センターや介護者の会などを活用する
  • 必要に応じて法律相談も検討する

4. 医療との連携を密にする

  • かかりつけ医と良好な関係を築く
  • 薬の副作用について十分な説明を受ける
  • 体調変化があれば早めに受診する

社会全体で考えるべき課題|介護者も被保護者も守る仕組みへ

高齢者虐待は確かに深刻な問題であり、防止策は必要不可欠だ。しかし、その一方で、献身的に介護を行う家族を「加害者」扱いすることは、別の形での人権侵害となる。

真に必要なのは、虐待を防ぎつつ、介護者も支援する包括的な仕組みだ。介護は家族だけの責任ではなく、社会全体で支えるべき課題である。

介護者支援の充実

介護者の負担を軽減し、虐待に至る前に支援の手を差し伸べることが重要だ。レスパイトケア(介護者の休息)の充実、経済的支援、精神的サポートなど、多面的な支援が求められる。

地域コミュニティの再構築

かつての日本には、地域全体で高齢者を見守る文化があった。現代においても、地域の絆を再構築し、孤立しがちな介護家族を支える仕組みが必要だ。

専門職の質の向上

高齢者保護に関わる専門職の研修を充実させ、適切な判断ができる人材を育成することが急務である。特に、医学的知識や家族支援のスキルは不可欠だ。

結論|誰もが当事者になりうる時代に

超高齢社会を迎えた日本では、誰もが介護の当事者になりうる。今は元気な両親も、いつかは介護が必要になるかもしれない。その時、愛情を持って介護しているにも関わらず、「虐待者」のレッテルを貼られる可能性は、決してゼロではない。

舞さんの事例は、現在の高齢者保護システムが抱える深刻な問題を浮き彫りにした。虐待から高齢者を守ることは重要だが、その過程で新たな被害者を生み出してはならない。

必要なのは、エビデンスに基づいた慎重な判断と、家族への支援を含めた包括的なアプローチだ。高齢者も介護者も、共に尊厳を持って生きられる社会の実現に向けて、今こそ制度の見直しが求められている。

「母を取り戻すまでの1年間は、人生で最も辛い時期でした。でも、この経験を通じて、同じような苦しみを抱える人たちがいることを知りました。私たちの声が、制度改善につながることを願っています」――舞さんの言葉は、多くの介護家族の思いを代弁している。

高齢者虐待防止は重要な課題だ。しかし、その取り組みが新たな悲劇を生まないよう、慎重かつ適切な運用が求められる。真に必要なのは、高齢者と介護者の両方を守り、支える社会システムの構築なのである。

投稿者 hana

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です