なぜ今、K-POPより日本アイドルなのか?10代の本音

「K-POPアイドルのライブチケット、高すぎて行けない」「完璧すぎて疲れちゃった」「日本のアイドルの方が親近感ある」

2025年7月26日、こんな声が10代女子の間で急速に広がっている。長年続いた韓国アイドルブームに、ついに終焉の兆しが見え始めたのだ。

数字がその変化を如実に物語る。マイナビティーンズラボが発表した「2025年上半期10代女子が選ぶトレンドランキング」では、K-POPアーティストがトップ5から完全に姿を消した。代わりに躍進したのが、CUTIE STREET(ヒト部門2位)とCANDY TUNE(コト部門1位)を筆頭とする日本のアイドルグループだ。

この現象の背景には、単なる流行の移り変わり以上の、若者文化の根本的な価値観の転換がある。

CUTIE STREETが証明した「不完全」の魅力

2024年夏にデビューしたCUTIE STREET(キューティーストリート)。彼女たちの代表曲「かわいいだけじゃだめですか?」は、YouTubeで2900万回再生、ストリーミングで8000万回以上という驚異的な数字を記録している。

しかし、注目すべきは再生回数だけではない。この曲のタイトルが示す問いかけこそが、現代の若者たちの心に深く響いているのだ。

「完璧じゃなくてもいい」「かわいいだけでも価値がある」というメッセージは、K-POPが作り上げた「完璧主義」への静かな反抗とも言える。実際、ファンからは次のような声が上がっている。

「K-POPアイドルのダンスは確かにすごいけど、真似できないレベル。CUTIE STREETのダンスなら、友達と一緒に踊れる」(17歳・高校生)

TikTokで爆発的拡散を記録

CUTIE STREETの成功の鍵は、TikTokでの戦略的な展開にもある。「かわいいだけじゃだめですか?」は、デジタルリリースから3ヶ月足らずでTikTokで29億回の視聴を記録。これは、単純計算で日本の人口の約23倍に相当する驚異的な数字だ。

彼女たちの振り付けは、誰でも真似しやすいシンプルな動きを基本としながら、「かわいさ」を最大限に表現できるよう工夫されている。この「参加しやすさ」が、K-POPの高難度ダンスとは対照的に、多くの若者を巻き込むことに成功した。

CANDY TUNEの「倍倍FIGHT\!」現象が示すもの

2023年3月にデビューしたCANDY TUNE(キャンディーチューン)も、この流れを加速させている。特に注目すべきは、彼女たちの楽曲「倍倍FIGHT\!」が巻き起こした社会現象だ。

2025年上半期トレンドランキングでコト部門1位を獲得した「倍倍FIGHT\!ダンス」は、楽曲リリースから約1年後にMVが公開されるという異例の展開を経て、2025年2月にTikTok音楽チャート1位を獲得。キャッチーな手の動きとポップなメロディーが特徴のこのダンスは、多くのインフルエンサーやユーザーを巻き込んだ一大ムーブメントとなった。

価格差が生む「推し活格差」

ここで見逃せないのが、経済的な側面だ。K-POPアーティストのライブチケットが平均1万円〜1万5000円なのに対し、日本のアイドルグループのライブは3000円〜5000円程度。この価格差は、お小遣いに限りがある10代にとって決定的な違いとなる。

「K-POPのライブは年に1回行けるかどうか。でも日本のアイドルなら、月1回は会いに行ける」(16歳・高校生)

この「会える頻度」の違いが、ファンとアイドルの距離感に大きく影響している。

「原宿」というブランドの復権

CUTIE STREETもCANDY TUNEも、共に「原宿発」を強調している。これは偶然ではない。K-POPの「江南スタイル」に対抗する形で、日本独自の文化発信地としての原宿が再評価されているのだ。

原宿は単なる地名ではなく、「かわいい文化」「個性的なファッション」「若者の自由な表現」を象徴する記号として機能している。グローバル化の中で均質化が進む世界において、この「ローカル性」こそが新たな価値となっているのだ。

SNS時代の新しいファン文化

日本アイドルの復活を支えているのは、成熟した「推し活」文化だ。K-POPファンダムの組織的な応援とは異なり、日本の推し活はより個人的で、創造的な要素が強い。

CUTIE STREETのファンは、メンバーの日常的なSNS投稿に対して積極的にリアクションし、ファンアート、ファンムービーなどの二次創作も盛んだ。これは単なる消費者としてではなく、「共創者」としてアイドルと関わりたいという欲求の表れだろう。

リアルタイム性への欲求

Z世代特有の「リアルタイム志向」も、日本アイドル人気の要因の一つだ。K-POPアーティストの多くが、完成されたコンテンツを定期的にリリースする形式を取るのに対し、日本のアイドルはInstagramストーリーズやX(旧Twitter)で日常を頻繁に共有する。

この「今」を共有する感覚が、ファンに「一緒に成長している」という実感を与えているのだ。

深層心理に潜む「癒やし」への欲求

コロナ禍、受験競争、SNS疲れ。現代の10代は、かつてないほどのストレスにさらされている。そんな中で、「完璧」を求めるK-POPより、「不完全でもいい」と言ってくれる日本アイドルに癒やしを求めるのは、ある意味で必然かもしれない。

心理学者の分析によると、「かわいい」という感情は、保護欲求と関連しており、ストレス軽減効果があるという。つまり、日本アイドルの「かわいさ」は、単なる見た目の問題ではなく、現代社会を生きる若者たちの心理的なニーズに応えているのだ。

業界が注目する「KAWAII LAB.」の戦略

CUTIE STREET、CANDY TUNE、FRUITS ZIPPER、SWEET STEADY。これらのグループを輩出している「KAWAII LAB.」プロジェクトの成功は、業界に大きなインパクトを与えている。

プロデュースするアソビシステムは、きゃりーぱみゅぱみゅを世界に送り出した実績を持つ。彼らの強みは、「KAWAII」を単なる日本語ではなく、世界共通語として確立したことにある。

「私たちは、K-POPと競争しているわけではありません。日本独自の価値を、現代的な形で表現しているだけです」(アソビシステム関係者)

この言葉が示すように、彼らの戦略は対立ではなく、差別化にある。

数字で見る経済効果

この日本アイドルブームは、確実に経済を動かしている。

– CUTIE STREET関連グッズの売上:推定月間5000万円以上
– CANDY TUNEのライブ動員数:年間延べ10万人超
– 関連するファッション・コスメ市場:推定200億円規模

特に注目すべきは、地方経済への波及効果だ。K-POPアーティストが東京・大阪に集中するのに対し、日本アイドルは積極的に地方公演を実施。これにより、地方のライブハウスやホテル業界にも恩恵が及んでいる。

批判と課題:持続可能性への疑問

もちろん、この現象に対する批判的な見方も存在する。

「結局、一時的なブームでは?」という声や、「世界市場で勝負できるのか」という疑問は根強い。確かに、BTS やBLACKPINKが達成した世界的成功と比較すれば、日本アイドルの海外展開はまだ限定的だ。

しかし、重要なのは規模の比較ではなく、それぞれの価値観や文化を尊重し合うことだろう。グローバル化が進む現代だからこそ、ローカルな魅力が輝きを放つ。それが今回の現象が示す最も重要なメッセージかもしれない。

2026年への展望:共存の時代へ

では、この先はどうなるのか。業界関係者の多くは、「対立」から「共存」への移行を予測している。

実際、K-POPアーティストとのコラボレーションを模索する日本のアイドルグループも出始めており、アジア全体のエンターテインメント産業が新たなフェーズに入る可能性がある。

また、AI技術の発展により、言語の壁を越えたコンテンツ制作も容易になりつつある。日本の「かわいい」文化とK-POPの「パフォーマンス力」が融合した、新しい形のエンターテインメントが生まれる日も近いかもしれない。

結論:「かわいい」が示す新しい価値観

2025年7月、日本のアイドルシーンに起きている変化は、単なるトレンドの移り変わりではない。それは、完璧主義に疲れた若者たちが、新しい価値観を模索し始めた証だ。

「かわいいだけじゃだめですか?」というCUTIE STREETの問いかけは、効率性や生産性ばかりが重視される現代社会への、優しい抵抗かもしれない。不完全でも、成長途中でも、それぞれの個性や魅力を認め合う。そんな寛容な社会への願いが、この現象の根底にはある。

K-POPが切り開いたアジアエンターテインメントの可能性を、日本は「かわいい」という独自の切り口で引き継いでいる。それは競争ではなく、多様性の中での共存を示す、新しい時代のあり方なのだ。

原宿から世界へ。その小さな一歩が、確実に大きな波紋を広げつつある。

投稿者 hana

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