夏休み真っ只中、親が知るべき新たな脅威
2025年8月1日、全国の小中高校で夏休みが始まって約1週間が経過しました。子どもたちが自由な時間を満喫する一方で、SNSを通じた新たな脅威が急速に拡大しています。「セクストーション」と呼ばれる性的脅迫の被害相談が、夏休みに入ってから急増しているのです。
セクストーションとは、SNSで知り合った相手に性的な画像や動画を送らせ、その後「拡散する」と脅して金品を要求する犯罪行為です。特に夏休み期間中は、子どもたちがスマートフォンやタブレットを使う時間が長くなるため、被害に遭うリスクが格段に高まります。
警察庁の最新データによると、2025年7月だけで前月比40%増の相談が寄せられており、そのうち約7割が18歳未満の未成年者からのものでした。この数字は氷山の一角に過ぎず、実際の被害はさらに多いと推測されています。
巧妙化する加害者の手口
セクストーションの手口は年々巧妙化しています。加害者は主に以下のような方法で子どもたちに接近します。
1. なりすましアカウントでの接触
加害者は同年代の異性になりすまし、共通の趣味や関心事を装って接近します。プロフィール写真には実在の人物の画像を無断使用し、本物らしさを演出。最初は普通の会話から始まり、徐々に親密度を高めていきます。
実際の事例では、「アイドルのオーディションを受けている」と自称する女性アカウントが、男子中学生に「体つきがいいね、見せてよ」と誘導。ビデオ通話で裸を見せるよう要求し、録画していたケースが報告されています。
2. ゲームやライブ配信アプリを通じた接触
人気のオンラインゲームやライブ配信アプリも、加害者の狩り場となっています。ゲーム内でのアイテムプレゼントや、配信での投げ銭を餌に、個人的なやり取りへと誘導。「特別なファンサービス」と称して、性的な画像を要求するケースが増えています。
3. AI技術を悪用した脅迫
最新の手口では、AI技術を使って被害者の顔を合成した偽の性的画像を作成し、「本物の画像を送らなければ、この合成画像を拡散する」と脅迫する事例も確認されています。技術の進歩により、素人目には本物と見分けがつかないレベルの合成画像が簡単に作成できるようになったことが、新たな脅威となっています。
被害に遭いやすい子どもの特徴
専門家の分析によると、セクストーションの被害に遭いやすい子どもには、いくつかの共通した特徴があります。
特徴 | 詳細 | リスクレベル |
---|---|---|
承認欲求が強い | SNSでの「いいね」や褒め言葉に弱く、相手の要求に応じやすい | 高 |
孤独感を抱えている | 現実世界での友人関係が希薄で、ネット上の関係に依存しがち | 高 |
自己肯定感が低い | 自分に自信がなく、他者からの評価を過度に求める傾向 | 中 |
保護者との関係が疎遠 | 親に相談しにくい環境にあり、問題を一人で抱え込みやすい | 高 |
SNSリテラシーが低い | ネット上の危険性を十分理解しておらず、警戒心が薄い | 中 |
これらの特徴は、必ずしも被害に遭うことを意味するわけではありませんが、保護者が注意すべきサインとして認識しておくことが重要です。
実際の被害事例から学ぶ
事例1:中学2年生女子のケース
SNSで知り合った「高校生の先輩」と称する人物と親しくなったA子さん(14歳)。相手は優しく相談に乗ってくれる存在でした。しかし、交際を申し込まれた際に断ると、態度が豹変。「今までの会話のスクリーンショットを学校にばらまく」と脅され、やむなく性的な画像を送信。その後も要求はエスカレートし、ついに親に相談して発覚しました。
事例2:高校1年生男子のケース
人気ゲームで知り合った「女子大生」からビデオ通話に誘われたB君(16歳)。相手の要求に応じて裸を見せたところ、録画されていることが判明。「動画を学校や親にばらまく」と脅され、10万円を要求されました。お小遣いでは足りず、親の財布から盗んで送金してしまいました。
事例3:小学6年生のケース
動画投稿サイトで人気になりたいと思っていたC子さん(12歳)。「芸能事務所のスカウト」を名乗る人物から、「オーディション用の写真」として水着姿の画像を要求されました。断ると「才能がないと事務所に報告する」と言われ、怖くなって画像を送信。その後、さらに過激な要求が続きました。
これらの事例に共通しているのは、加害者が子どもの心理を巧みに操り、断りにくい状況を作り出している点です。また、被害に遭った子どもたちの多くが、恥ずかしさや罪悪感から親に相談できずにいたことも、被害を深刻化させる要因となっています。
保護者ができる具体的な対策
子どもをセクストーションから守るために、保護者ができる対策は多岐にわたります。以下、具体的な方法を詳しく解説します。
1. オープンなコミュニケーション環境の構築
最も重要なのは、子どもが何でも相談できる環境を作ることです。「SNSで困ったことがあったら、怒らないから必ず相談して」というメッセージを日頃から伝えましょう。実際に相談があった際は、まず子どもの勇気を褒め、冷静に対応することが大切です。
2. 段階的なSNS利用ルールの設定
年齢に応じた明確なルールを設定し、子どもと一緒に確認しましょう。
- 小学生:保護者の管理下でのみSNS利用を許可。知らない人とのやり取りは禁止
- 中学生:利用時間の制限(例:21時まで)。新しい友達追加は保護者に報告
- 高校生:自主性を尊重しつつ、定期的な利用状況の確認と話し合い
3. ペアレンタルコントロールの活用
スマートフォンやタブレットの機能制限を適切に設定することで、リスクを軽減できます。
設定項目 | iOS(iPhone/iPad) | Android |
---|---|---|
アプリの年齢制限 | スクリーンタイム → コンテンツとプライバシーの制限 | ファミリーリンク → アプリの制限 |
ウェブサイトフィルタ | スクリーンタイム → コンテンツ制限 | ファミリーリンク → フィルタ設定 |
利用時間制限 | スクリーンタイム → 休止時間 | ファミリーリンク → 利用時間の上限 |
位置情報共有 | ファミリー共有 → 位置情報を共有 | ファミリーリンク → 位置情報 |
4. デジタルリテラシー教育の実施
単に禁止するだけでなく、なぜ危険なのかを理解させることが重要です。以下のポイントを年齢に応じて教育しましょう。
- ネット上の人物は本当の姿を隠している可能性があること
- 一度送った画像や動画は取り戻せないこと
- 個人情報(学校名、住所、電話番号など)を教えてはいけない理由
- 困ったときの相談先(親、先生、相談窓口など)
5. 定期的なデバイスチェック
プライバシーに配慮しながらも、定期的に子どものデバイスをチェックすることは必要です。ただし、これは監視ではなく「一緒に安全を確認する時間」として位置づけましょう。
もし被害に遭ってしまったら
万が一、子どもがセクストーションの被害に遭ってしまった場合、迅速かつ適切な対応が重要です。
初期対応の手順
- 証拠の保全:脅迫メッセージ、送信した画像、相手のアカウント情報などをスクリーンショットで保存
- ブロックと通報:加害者のアカウントを即座にブロックし、各SNSの通報機能を使用
- 追加被害の防止:要求には絶対に応じない。金銭を要求されても支払わない
- 専門機関への相談:警察のサイバー犯罪相談窓口や専門の相談機関に連絡
相談窓口一覧
- 警察庁サイバー犯罪相談窓口:各都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口で対応
- 法務省インターネット人権相談:0570-003-110(平日8:30~17:15)
- セーファーインターネット協会:違法・有害情報の通報や相談が可能
- チャイルドライン:0120-99-7777(18歳までの子ども専用、16:00~21:00)
心のケアの重要性
被害に遭った子どもは、強い罪悪感や恥ずかしさを感じています。「あなたは悪くない」「勇気を出して相談してくれてありがとう」というメッセージを繰り返し伝え、必要に応じて専門のカウンセラーへの相談も検討しましょう。
学校や地域との連携
セクストーション対策は、家庭だけでなく学校や地域全体で取り組む必要があります。
学校での取り組み
多くの学校では、情報モラル教育の一環としてSNSの危険性について指導しています。保護者は学校の取り組みを把握し、家庭での指導と連携させることが大切です。また、PTAや保護者会で情報共有の機会を設けることも有効です。
地域での見守り活動
地域の青少年育成委員会や民生委員などと連携し、子どもたちを見守るネットワークを構築することも重要です。特に、ひとり親家庭や共働き家庭など、子どもが一人で過ごす時間が長い家庭への支援は欠かせません。
テクノロジーを活用した対策
最新のテクノロジーを活用することで、より効果的な対策が可能になります。
AIを活用した見守りアプリ
子どものSNS利用を見守るアプリの中には、AIが危険なやり取りを検知して保護者に通知する機能を持つものがあります。プライバシーに配慮しながら、適切に活用することで早期発見につながります。
ブロックチェーン技術による画像追跡
一部の企業では、ブロックチェーン技術を使って画像の拡散経路を追跡し、削除要請を効率化するサービスを開発しています。将来的には、こうした技術が被害の拡大防止に貢献することが期待されています。
国や自治体の取り組み
政府や自治体も、セクストーション対策に本腰を入れ始めています。
法整備の動向
2025年の通常国会では、セクストーションを含むオンライン性犯罪への罰則強化を盛り込んだ法改正案が審議される予定です。特に、未成年者を対象とした犯罪については、厳罰化の方向で議論が進んでいます。
啓発キャンペーン
内閣府や警察庁では、夏休み期間中の集中的な啓発キャンペーンを展開しています。有名YouTuberやインフルエンサーとのコラボレーションにより、子どもたちに直接メッセージを届ける試みも行われています。
海外の先進事例から学ぶ
セクストーション対策において、海外の先進的な取り組みも参考になります。
イギリスの「Online Safety Act」
2023年に施行されたイギリスの法律では、SNS事業者に対して子どもの安全を守る義務を課しています。違反した場合は巨額の罰金が科されるため、各社が積極的な対策を講じています。
オーストラリアの「eSafety Commissioner」
政府機関として設置されたeSafety Commissionerは、オンライン上の安全に関する相談や被害画像の削除要請を一元的に受け付けています。迅速な対応により、被害の拡大を防いでいます。
まとめ:今すぐできる3つのアクション
セクストーションから子どもを守るために、保護者が今すぐできることを3つにまとめました。
- 今夜、子どもと話す時間を作る:「最近SNSで何か困ったことはない?」と優しく聞いてみましょう。日常会話の中で、自然に安全について話し合うことが大切です。
- 家族のSNSルールを見直す:現在のルールが適切か、子どもの成長に合わせて見直しが必要かを確認しましょう。ルールは一方的に押し付けるのではなく、子どもと一緒に考えることが重要です。
- 相談窓口の連絡先を共有:上記で紹介した相談窓口の連絡先を、家族全員がアクセスできる場所に掲示しておきましょう。いざという時にすぐ行動できる準備が大切です。
夏休みは子どもたちにとって楽しい時間であるべきです。適切な知識と対策により、安全にSNSを楽しめる環境を整えることで、充実した夏休みを過ごせるよう支援していきましょう。セクストーションは決して他人事ではありません。すべての保護者が当事者意識を持って取り組むことで、子どもたちを守ることができるのです。
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