終戦80年の夏、なぜ今「戦争絵本」が注目されるのか
2025年8月、日本は終戦から80年という大きな節目を迎えました。戦争体験者が高齢化し、直接の証言を聞く機会が失われつつある今、子どもたちに戦争の記憶をどう伝えていくかが重要な課題となっています。
そんな中、絵本という媒体が改めて注目を集めています。「いま、日本は戦争をしている」といった衝撃的なタイトルの作品も登場し、親子で戦争と平和について考える機会を提供しています。
なぜ絵本なのか?戦争体験継承の新たな形
絵本には、難しいテーマを子どもたちに分かりやすく伝える力があります。戦争という重いテーマも、絵と言葉の組み合わせによって、幼い子どもでも理解できる形で提示することができるのです。
特に2025年は、戦後80年という節目の年であり、多くの出版社が戦争と平和をテーマにした絵本を刊行しています。これらの絵本は、単に過去の出来事を伝えるだけでなく、現在進行形で世界で起きている紛争についても考えさせる内容となっています。
話題の戦争絵本5選
1. 「いま、日本は戦争をしている ―太平洋戦争のときの子どもたち―」
最も話題となっているのが、この衝撃的なタイトルの絵本です。太平洋戦争当時の子どもたちの体験を通じて、戦争の現実を伝える作品となっています。
タイトルの「いま」という言葉には、過去の戦争を現在の問題として捉え直す意図が込められています。戦争は決して過去の出来事ではなく、今も世界のどこかで起きている現実であることを子どもたちに伝えています。
2. 「へいわとせんそう」(たにかわしゅんたろう著、Noritake絵)
詩人・谷川俊太郎による作品で、同じ人や物、場所を「平和」と「戦争」の状態で見開きごとに比較して見せる画期的な絵本です。
平和のとき | 戦争のとき |
---|---|
笑顔の父親 | 銃を持つ兵士となった父親 |
遊ぶ子どもたち | 防空壕に避難する子どもたち |
賑わう街並み | 瓦礫と化した街並み |
シンプルな構成ながら、戦争が日常をどう変えてしまうかを視覚的に理解できる作品として高く評価されています。
3. 「うさぎの島」―毒ガス製造の歴史を伝える
広島県大久野島を舞台にした絵本です。現在は「うさぎの島」として観光地となっている島が、かつて毒ガス製造の拠点だったという歴史を、うさぎたちの視点から描いています。
可愛らしいうさぎの絵と重い歴史のコントラストが、子どもたちに強い印象を与える作品です。戦争の負の遺産が、どのように現在の平和な風景に変わったかを伝えています。
4. 内田麟太郎による近未来戦争絵本
ロボット兵士が戦う近未来の戦争を描いた作品です。現代の戦争がドローンやAI兵器によって行われる現実を踏まえ、子どもたちに新しい形の戦争について考えさせる内容となっています。
SFのような設定でありながら、戦争の本質的な問題―人間性の喪失や命の軽視―を鋭く描いています。
5. 戦争体験者の証言を基にした絵本シリーズ
実際の戦争体験者へのインタビューを基に制作された絵本シリーズも注目されています。空襲、疎開、原爆など、様々な体験を持つ人々の証言が、分かりやすい絵と文章で表現されています。
親子で読む際のポイント
年齢に応じた選び方
- 3-5歳:シンプルな絵と短い文章の絵本から始める
- 6-8歳:物語性のある絵本で、登場人物に共感しながら読む
- 9歳以上:歴史的背景も含めて理解できる、より詳細な内容の絵本
読み聞かせ時の工夫
- 子どもの反応を見ながら読む
怖がったり不安になったりしたら、一旦読むのを止めて話し合う時間を設ける - 現在の生活と比較する
「今の私たちの生活はどう?」と問いかけ、平和の大切さを実感させる - 子どもの質問を大切にする
「なぜ戦争が起きるの?」といった質問に、一緒に考える姿勢を示す
絵本が果たす重要な役割
1. 共感力の育成
戦争絵本は、異なる立場の人々の気持ちを理解する共感力を育てます。敵味方という単純な構図ではなく、どちらの側にも家族がいて、大切な人がいることを伝えています。
2. 批判的思考の促進
「なぜ戦争が起きたのか」「どうすれば防げたのか」といった問いを通じて、子どもたちの批判的思考力を養います。
3. 平和への意識づけ
日常の平和がいかに貴重なものかを認識させ、それを守るために何ができるかを考えさせます。
現在の世界情勢と絵本の意義
2025年の今も、世界では様々な紛争が続いています。ウクライナ、中東、アフリカなど、多くの地域で子どもたちが戦争の犠牲になっています。
絵本ナビの特集では、「今この瞬間にも、世界では国同士が始めた戦争によって、心身に傷を負っている大人や子どもたちがたくさんいます」と現在進行形の問題として捉えています。
グローバル化時代の平和教育
インターネットやSNSの普及により、世界の出来事がリアルタイムで伝わる現代。子どもたちも様々な情報に触れる機会が増えています。だからこそ、絵本を通じた平和教育の重要性が高まっているのです。
教育現場での活用事例
小学校での取り組み
多くの小学校で、8月の平和学習週間に戦争絵本の読み聞かせが行われています。2025年は特に終戦80年ということで、特別プログラムを組む学校が増えています。
図書館での企画展示
全国の図書館で「終戦80年特別展示」が開催され、戦争絵本コーナーが設置されています。親子で訪れやすい環境づくりが進められています。
保育園・幼稚園での工夫
年齢に応じた絵本選びと、専門家によるアドバイスを受けながら、幼児期からの平和教育に取り組む施設が増えています。
専門家の見解
児童文学研究者の視点
児童文学の専門家は、「戦争絵本は単なる過去の記録ではなく、未来を作る子どもたちへのメッセージ」と述べています。絵本という形式だからこそ、複雑な感情や状況を子どもたちが理解できる形で伝えられるのです。
心理カウンセラーのアドバイス
子どもの心理に詳しい専門家は、「戦争絵本を読む際は、子どもの不安を受け止め、一緒に考える姿勢が大切」と助言しています。怖いだけで終わらせず、「だから平和が大切なんだ」という前向きな結論に導くことが重要です。
家庭でできる平和教育
日常生活での実践
- 感謝の気持ちを育てる:食事や安全な生活に感謝する習慣をつける
- 多様性を認める:異なる文化や価値観を尊重する態度を身につける
- 対話を大切にする:意見の違いを暴力ではなく話し合いで解決する
絵本を起点とした活動
- 家族で話し合う時間を作る
- 戦争体験者の話を聞く機会を探す
- 平和記念館や資料館を訪れる
- 世界の子どもたちへの支援活動に参加する
出版社の取り組み
2025年の終戦80年に向けて、各出版社が特別な取り組みを行っています。
新日本出版社
戦争体験者への大規模なインタビュープロジェクトを実施し、その証言を基にした絵本シリーズを刊行しています。
絵本ナビ
オンラインプラットフォームの強みを活かし、戦争と平和に関する絵本の特集ページを作成。読者レビューや専門家の解説も充実させています。
各地の地方出版社
地域の戦争体験を掘り起こし、地元の歴史を伝える絵本を制作。全国的な視点とは異なる、地域密着型の平和教育に貢献しています。
デジタル時代の新しい試み
AR(拡張現実)を使った絵本
スマートフォンやタブレットをかざすと、絵本の中の風景が立体的に見えたり、当時の音声が聞こえたりする新しいタイプの絵本も登場しています。
オンライン読み聞かせイベント
コロナ禍を経て定着したオンラインイベント。戦争体験者と子どもたちをオンラインでつなぎ、直接対話する機会も設けられています。
終戦80年の意味
80年という歳月は、人間の一生を超える長さです。戦争を直接体験した世代から、ひ孫の世代へと時代は移っています。この大きな節目の年に、私たちは何を伝え、何を残すべきでしょうか。
記憶の継承の緊急性
戦争体験者の平均年齢は90歳を超え、直接の証言を聞ける機会は急速に失われています。だからこそ、絵本という形で記憶を固定し、次世代に伝える作業が急務となっています。
新しい形の戦争への警鐘
サイバー戦争、情報戦、経済制裁など、現代の戦争は従来とは異なる形を取っています。子どもたちには、こうした新しい脅威についても理解させる必要があります。
読者の声
保護者からの反響
「5歳の娘と『へいわとせんそう』を読みました。最初は怖がっていましたが、今の生活がどれだけ幸せか理解したようです」(30代母親)
「息子が『なぜ戦争をするの?』と聞いてきて、答えに困りました。でも、一緒に考えることが大切だと気づきました」(40代父親)
教育関係者の評価
「絵本は子どもたちにとって最も身近なメディア。戦争という難しいテーマも、絵本なら自然に伝えられます」(小学校教諭)
「終戦80年の今年、改めて平和教育の重要性を感じています。絵本はその入口として最適です」(図書館司書)
まとめ:未来への責任
終戦80年を迎えた2025年の夏、戦争絵本は単なる過去の記録ではなく、未来への警告として、そして平和への願いとして、重要な役割を果たしています。
「いま、日本は戦争をしている」という衝撃的なタイトルが示すように、戦争は決して過去の出来事ではありません。世界のどこかで今も続いている現実であり、私たち一人一人が考えるべき問題なのです。
親子で絵本を読み、戦争と平和について語り合う。そんな小さな行動の積み重ねが、より良い未来を作る第一歩となるでしょう。終戦80年の節目に、改めて平和の尊さを次世代に伝えていく―それが今を生きる私たちの責任ではないでしょうか。
今すぐできること
- 近くの図書館や書店で戦争絵本を探してみる
- 家族で平和について話し合う時間を作る
- 8月15日の終戦記念日に向けて、親子で学ぶ計画を立てる
- 地域の平和イベントに参加する
戦後80年の今、私たちにできることは、過去を忘れず、現在を見つめ、未来に希望を持つこと。絵本という小さな窓を通して、大きな世界と向き合う勇気を、子どもたちと共に育んでいきましょう。