「私たちも日本の一員」涙の訴えが参院選に波紋
カメラの前で、一人のタレントが声を震わせた。目には涙があふれ、必死に言葉を紡ぐ姿がそこにあった。
「私たちも、日本の一員なんです」
2025年7月6日朝、参議院選挙の投開票日。TBS系「サンデーモーニング」に出演したイラン出身タレントの涙の訴えが、日本中に衝撃を与えた。あなたの隣で働く外国人の同僚、子どもの学校の保護者、行きつけの店の店員。彼らには選挙権がない。この事実が、今、私たちに何を問いかけているのか。
番組での感動的な発言の全容
話題となった発言は、7月6日朝に放送されたTBS系情報番組「サンデーモーニング」でのことだった。参議院選挙の特集コーナーで、コメンテーターとして出演していたイラン出身のタレントが、選挙戦での外国人に対する一部の批判的な言動について言及した際、感極まって涙を流しながら次のように語った。
「私たち外国人には選挙権がありません。それは制度上の事実です。でも、だからといって私たちを攻撃したり、排除したりするのは違うと思います。私たちも日本で税金を払い、日本の社会に貢献しています。選挙権がないからこそ、こうしてメディアで発言する機会をいただいて、少しでも社会に声を届けたいと思っているんです」
この発言の背景には、今回の参議院選挙戦で一部の候補者や支持者から聞かれた、外国人に対する排他的な発言があった。特にSNS上では、外国人の政治的発言に対して「選挙権もないのに口を出すな」といった批判的なコメントが散見されていた。
SNSで爆発的に拡散された理由
この発言が放送されると、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSで瞬く間に拡散された。ハッシュタグ「#外国人に選挙権ない」「#サンモニ」「#参院選2025」などがトレンド入りし、様々な立場からの意見が飛び交った。
共感の声
多くのユーザーからは、タレントの勇気ある発言に対する共感の声が上がった。
- 「選挙権の有無に関わらず、日本に住む全ての人に発言する権利はある」
- 「税金を払っているのに選挙権がないという矛盾について、改めて考えさせられた」
- 「涙ながらの訴えに心を打たれた。多様性を認める社会であってほしい」
- 「外国人も日本社会の一員。排除ではなく共生を目指すべき」
批判的な意見
一方で、批判的な意見も少なくなかった。
- 「選挙権は国民の権利。外国人に与えるべきではない」
- 「感情論で制度を変えるべきではない」
- 「他国でも外国人に選挙権を与えていない国は多い」
- 「帰化すれば選挙権を得られる。制度は公平だ」
日本における外国人の選挙権の現状
日本の現行法では、外国人に選挙権は認められていない。これは憲法第15条の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」という規定に基づいている。最高裁判所も1995年の判決で、外国人に選挙権を与えることは憲法上禁止されていないが、与えるかどうかは立法政策の問題であるとの見解を示している。
地方選挙権をめぐる議論
特に注目されているのが、地方選挙における外国人の選挙権だ。一部の政党や市民団体は、永住外国人に限定して地方選挙権を付与すべきだと主張している。その根拠として以下の点が挙げられている。
賛成派の主張 | 反対派の主張 |
---|---|
地域社会の一員として貢献している | 国民主権の原則に反する |
納税の義務を果たしている | 納税と選挙権は別問題 |
他国でも認められている例がある | 日本の国情に合わない |
多文化共生社会の実現に必要 | 安全保障上の懸念がある |
世界各国の外国人選挙権の状況
外国人の選挙権については、世界各国で様々なアプローチが取られている。
選挙権を認めている国々
EU加盟国:EU市民は居住する他のEU加盟国で地方選挙権と欧州議会選挙権を持つ。これはEU統合の一環として、市民の移動の自由を保障するための制度だ。
韓国:2005年から永住資格を持つ外国人に地方選挙権を付与している。ただし、取得から3年以上経過していることが条件となる。
ニュージーランド:1年以上の居住で外国人も国政選挙に参加できる。これは世界的にも珍しい制度だ。
選挙権を認めていない国々
アメリカ:連邦レベルでは外国人の選挙権は認められていない。ただし、一部の地方自治体では限定的に認められている場合がある。
中国:外国人の選挙権は一切認められていない。
ドイツ:EU市民以外の外国人には選挙権がない。
在日外国人の現状と課題
日本に住む外国人は、2024年末時点で約320万人に達している。これは日本の総人口の約2.6%にあたる。彼らの多くは日本で働き、税金を納め、地域社会に貢献している。
永住者の状況
特に永住資格を持つ外国人は約130万人おり、その多くが10年以上日本に居住している。彼らの中には、日本で生まれ育った「在日2世」「3世」も含まれている。
- 特別永住者:約28万人(主に在日韓国・朝鮮人)
- 一般永住者:約100万人(様々な国籍)
- 日本人の配偶者等:約14万人
直面する課題
在日外国人が直面する課題は選挙権だけではない。
- 就職差別:一部の企業では外国人の採用に消極的
- 住居差別:「外国人お断り」の賃貸物件が存在
- 社会保障:年金や健康保険の適用に関する複雑な問題
- 教育:子どもの教育における言語や文化の壁
多様性社会における政治参加のあり方
今回のタレントの発言は、単に選挙権の有無という制度的な問題を超えて、多様性社会における政治参加のあり方について深い問いを投げかけている。
選挙権以外の政治参加の形
選挙権がなくても、外国人が日本の政治や社会に参加する方法はある。
- 市民活動への参加:NPOやボランティア活動を通じた社会貢献
- パブリックコメント:政策に対する意見表明
- メディアでの発言:今回のタレントのように、メディアを通じた意見発信
- 請願権の行使:憲法で保障された請願権は外国人にも認められている
- デモや集会への参加:表現の自由は外国人にも保障されている
企業や地域での取り組み
一部の企業や地域では、外国人の声を政策や経営に反映させる取り組みが始まっている。
- 外国人市民会議:川崎市などで設置され、外国人の意見を市政に反映
- 多文化共生推進委員会:多くの自治体で外国人委員を含む委員会を設置
- 企業のダイバーシティ推進:外国人社員の意見を経営に反映させる仕組み
若い世代の意識変化
特に注目すべきは、若い世代の意識変化だ。各種調査によると、20代・30代の日本人の多くが、外国人の地方選挙権付与に肯定的な見解を示している。
Z世代の特徴
1990年代後半から2010年代に生まれたZ世代は、グローバル化が進んだ環境で育ち、多様性に対して寛容な傾向がある。
- 学校や職場で外国人と接する機会が多い
- SNSを通じて世界中の人々とつながっている
- 多様性を価値として認識している
- 排他的な考え方に違和感を持つ
政党の立場と今後の展望
今回の参議院選挙では、各政党が外国人の選挙権についてどのような立場を取っているかも注目されている。
主要政党のスタンス
政党名 | 外国人選挙権への立場 |
---|---|
自民党 | 慎重・反対 |
立憲民主党 | 地方選挙権付与に前向き |
公明党 | 地方選挙権付与を推進 |
日本維新の会 | 反対 |
国民民主党 | 慎重 |
共産党 | 地方選挙権付与に賛成 |
れいわ新選組 | 賛成 |
社民党 | 賛成 |
参政党 | 反対 |
今後の展望
外国人の選挙権問題は、今後も日本社会の重要な課題として議論され続けるだろう。特に以下の要因が議論を加速させる可能性がある。
- 少子高齢化の進行:労働力不足により外国人労働者の受け入れが拡大
- グローバル化の進展:国際結婚や国際的な人材交流の増加
- 地方の過疎化:外国人住民が地域社会の担い手となるケースの増加
- 国際的な圧力:人権意識の高まりと国際社会からの要請
まとめ:共生社会への道筋
イラン出身タレントの涙の訴えは、日本社会に大きな問いを投げかけた。選挙権の有無にかかわらず、日本に住む全ての人が尊重され、その声が社会に反映される仕組みをどう作っていくか。これは単なる制度の問題ではなく、日本がどのような社会を目指すのかという根本的な問題だ。
多様性が進む現代社会において、排除ではなく包摂を、対立ではなく対話を選ぶことが重要だ。今回の発言が多くの人々の心に響いたのは、そうした共生社会への願いが多くの日本人の中にあることの証左かもしれない。
参議院選挙という民主主義の重要な機会に、選挙権を持たない人々の声にも耳を傾け、すべての住民が安心して暮らせる社会をどう実現していくか。それは、選挙権を持つ有権者一人一人に課された責任でもある。今回の選挙が、そうした議論を深める契機となることを期待したい。
今、あなたができること
今日、投票所に向かうあなたに問いかけたい。
あなたの一票は、選挙権を持たない320万人の声も背負っている。彼らの子どもたちは、あなたの子どもと同じ教室で学んでいる。彼らの税金は、あなたと同じ社会を支えている。彼らの夢は、あなたと同じこの国で花開こうとしている。
選挙権という特権を持つ私たちだからこそ、できることがある。それは、すべての住民が尊厳を持って暮らせる社会を選ぶことだ。排除ではなく包摂を、分断ではなく対話を選ぶことだ。
イラン出身タレントの涙は、私たちに大切なことを思い出させてくれた。民主主義とは、単に多数決の仕組みではない。声なき声に耳を傾け、共に生きる道を探る、終わりなき対話のプロセスなのだと。
さあ、投票に行こう。あなたの一票で、どんな日本を選ぶのか。その答えは、あなたの手の中にある。
関連リンク・参考資料
- 総務省:在留外国人統計
- 法務省:永住許可に関するガイドライン
- 各政党の選挙公約(外国人政策部分)
- 最高裁判所判例:平成7年2月28日判決
- 国連人権理事会:日本の人権状況に関する報告書